《女性の心と体を救う「性差医療」》体格やホルモンバランス、働き方や生活習慣など「男女の違い」を反映した医療が進化している
検査で見える血管は全体の5%のみ
「実は、心臓の血管を見る画像検査で確認できる血管は全体の5%に過ぎません。従来は男性を基準とし、その5%で心筋梗塞や狭心症の診断を下していました」 熊本大学病院循環器内科で、女性の心血管疾患を診ている河野宏明さんは微小血管狭心症について、こう解説し、次のように続ける。 「画像検査で確認できるような太い血管が詰まって発症する狭心症と違って、微小血管狭心症は冠動脈という太い幹から枝分かれをして内側に入り込み、心臓の筋肉に栄養と酸素を届ける直径0.5mm以下の微小血管で異常が生じ、発症していると考えられます。 女性の狭心症はこちらのケースが多く、画像検査では見えない残りの95%で発症しているということになります」 つまり、微小血管狭心症は、従来の男性基準では見えなかった「未知の狭心症」というわけだ。
微小血管狭心症は患者の7割が女性
一般に狭心症が疑われると、まず、運動や薬剤で心臓に負担をかけながら心電図を取る「負荷心電図検査」が行われる。 トレッドミルやエアロバイクなどのランニングマシンで運動しながら心電図を記録するもので、運動中に心筋が「酸欠」を起こすと、血流不足を示す典型的な波形が現れる。 心電図に異常を認めた場合は、さらに心臓の血流を観察する血管造影検査が実施される。従来の狭心症ならば、心臓の表面を走る太い冠動脈(直径2~4mm)の血流が滞る様子が観察されるはずだ。 「ところが10人に1人の割合で、心電図に明らかな異常があるにもかかわらず、冠動脈には何の病変も見つからないケースがあります。そうした症例の7割は閉経後の女性です」(河野さん・以下同) 幸いなことに、微小血管狭心症は致命的な心臓病ではないという。 「ただ、安静にしていても数分から長いときは30分以上も続く胸痛や不快な症状に悩まされます。また、持病や服薬などほかのリスクによっては微小血管狭心症が悪化したり、ほかに影響することもあり得る。たとえば糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病がある人は、より注意が必要です」 医療界ではよく「男性は病気で命を失い、女性は病気で生活の質(QOL)を失う」といわれるが、微小血管狭心症はその典型だ。自覚症状が多彩なだけに、狭心症の性差を理解している医師に診察されない限り、原因不明の不定愁訴と“誤診断”されかねない。 別掲の図にある「非典型的」な自覚症状に心当たりがある更年期~閉経後の女性は、一度、循環器専門医に相談してみるといいだろう。特に、家族に心筋梗塞や狭心症の既往があるなら時間をとっても損はない。 治療法としては、いまのところ不整脈や狭心症の薬でもある降圧剤のカルシウム拮抗薬が第一選択薬だ。このほか、抗不安薬、漢方薬も処方されている。 アメリカでは、女性の微小血管狭心症患者のみを対象に、既存の脂質異常症治療薬(スタチン系)と降圧剤のARB薬もしくはACE阻害薬を組み合わせた治療方法の効果と副作用を調べる臨床試験が進行中だ。 これは女性にフォーカスを当てた試験であり、結果が待ち望まれる。