ドラマあるある! 電気ショックで「戻ってこい!」は医学現場ではありえない!?
ドラマによくある、電気ショックで「戻ってこい!」のウソ
さて、ここで覚えておくべき重要なポイントは、「AEDなどの道具で電気ショックを与えて心停止を治療できるのは、心室細動か無脈性心室頻拍であったときだけ」ということです。 逆に、無脈性電気活動や心静止、つまり心臓が完全に動きを止めてしまったときは、電気ショックの効果はありません。 医療ドラマでは、心電図モニターにフラットな一本線が現れている状態(心静止)なのに、主人公の医師が「戻ってこい!」と言って電気ショックをかけるシーンが昔からあるわけですが、こういうことは現実にはありえないのです。 AEDは、前述した通り「Automated External Defibrillator」、つまり「自動体外式除細動器」です。この「除細動」という言葉の意味を考えると分かりますが、AEDの目的は「細かく動くだけの状態(細動)を改善すること」にあります。 震えるように細かく動くだけでポンプ機能は果たせていない致命的な不整脈を、電気ショックによって「正常の拍動に戻す」のが除細動です。言い換えれば、電気ショックは「不整脈の治療」です。 心臓が完全に動きを止め、不整脈が起こっていない状態であるなら、電気ショックによって治せるものは何もないのですから、電気ショックには当然効果がありません。 患者さんが心停止に陥ったときは、心臓マッサージ(胸骨圧迫)を続けながら、定期的に心電図モニターの波形を確認し、電気ショックが使える状態かどうかを判断します。電気ショックが使えない波形なら心臓マッサージ(胸骨圧迫)を続ける、電気ショックが使える波形に変わったら電気ショック、という流れです。
電気ショックが効くか効かないか、判断できなくてもAEDは使える
ところで、この電気ショックは、医療者にしかできない行為ではありません。ご存知のように、AEDは街中にもたくさん設置されています。これはもちろん、私たち専門家だけでなく、誰でもAEDを使えるようにするためです。致命的な心停止が起こったとき、一秒でも早く治療を開始することが、患者さんが生き延びるためには最も重要だからです。 ところが、ここまで書いてきたように、街中でばったり倒れた人が仮に心停止でも、「AEDが全く効かないタイプの心停止」ということがありえます。では、「AEDが使えるかどうか」をどのようにして判断すればいいのでしょうか? その答えは、「判断できなくてもAEDは使える」です。 もう一度思い出していただきたいのが、AED=「Automated External Defibrillator」の中の、「Automated=自動化された」という言葉です。AEDは、胸にシールのようなパッドを貼り付けるだけで、自動で心電図波形を読み取り、「電気ショックが必要かどうか」を音声で教えてくれるのです。 AEDで誰かを救おうとしている通りすがりの人が、「倒れた人の心電図波形がどのタイプか」まで知る必要は当然ありません。AEDは、自動音声で「心電図波形を解析しています」と告知し、その結果として、「電気ショックが必要です」または「電気ショックは不要です」という答えをくれます。電気ショックが必要だと言われたら、そこでボタンを押せばいいだけです(電気ショックが不要なら、ボタンを押さずに心臓マッサージを再開です)。 特殊な判断を必要としないのが、AEDの利点です。むしろ、一般向けに街中に設置するなら、このくらい自動化されていないと使い物にならない、と言ってもいいかもしれません。