「交際相手に障害のある弟の話ができなかった」恋愛や結婚に憧れるも「きょうだい児」の女性弁護士は「悩んだ末エリートコースを蹴って」
障害のある弟をもつ「きょうだい児」の立場である弁護士の藤木和子さん。司法試験に合格し、弁護士として就職する際、エリートコースか本当に自分のやりたいことの間で悩んだと言います。さらにその後、待ち受けていた結婚のハードルとは。(全3回中の2回) 【写真】「まさにエリートですね」東大の卒業式で角帽を身につけ笑顔の藤木和子さん ほか(全12枚)
■エリートコースと「きょうだい」の仕事で悩んだ末に ── 弁護士を目指して東大法学部に進んだ後、他学部への転部を考えたこともあったそうですが、どんな葛藤があったのでしょうか。
藤木さん:当時は「きょうだい児」という言葉も概念もまったく知らなかったので、自分の苦しさは、女性であるがゆえなのかなと思っていました。当時、東大には上野千鶴子先生がいらしたので、上野先生のもとでジェンダーを学べる文学部に転部を考えたんです。大学2年のときに3か月だけ、上野先生のゼミに入らせていただいて。自分の跡を継いで弁護士になることを私に望んでいた父に「転部したい」と言ったら大反対されましたが、いざ転部を勝ち取ったら、気持ちが落ち着いてしまった。やっぱり法学部に戻って資格を取ったほうが、学んだ内容を生かすにしても有意義なのではと考えて、1年留年して法学部に戻りました。今思うと、ジェンダーやフェミニズムって、きょうだいの問題と重なるところがあるなと。
──どういう共通点があると思われますか。 藤木さん:目に見えにくかったり、主張しにくい部分や、自己犠牲を強いられがちな点が似ていると感じます。「きょうだいなんだから、障害のある兄弟姉妹の世話をするのも、自分のやりたいことを諦めるのも当たり前」とか、本来当たり前ではないのに、そう思い込んでしまう方もいます。 ── その後、27歳で司法試験に合格し、晴れて弁護士に。都内の大手法律事務所と弁護士であるお父さんの個人事務所、どちらで働くかという選択肢で迷われたそうですね。
藤木さん:障害者関係の仕事に関わりたいという気持ちが強かったものの、東大の法科大学院にはやはり、大手法律事務所の内定を取らなければという意識があって、それに自分も挑戦したい思いがありました。内定をいただけたのですが、町弁(個人で開業し、主に地域住民からの依頼を受ける弁護士)の父からしたら、「そんなのは弁護士じゃない、会社員だ」って言われて。 すごく悩んで、いちばんもがいていた時期かもしれません。障害者関係の弁護士に自分からアプローチして会いに行ったり、中学のときに講演を聞いた東大の教授で、全盲ろうの福島智先生にいきなりメールをして相談したり。きょうだい児の当事者が集まる「きょうだい会」にも駆け込みましたし、とにかくいろんな方の意見を聞きました。