【「品格と資力」は最低条件】超高級老人ホーム「サクラビア成城」が求める「驚愕の入居条件」
話題の一冊である『ルポ 超高級老人ホーム』。大きな話題を呼んでいる同作の内容を一部抜粋、再編集してお届けする。 【画像】「品格と資力」とそれから…超高級老人ホーム入居に求められる驚きの条件 ◆高額な部屋ほど争奪戦に そんな豪華客船のような施設である「サクラビア成城」が一度沈みかけたことは、あまり知られていない。経営が悪化していたのである。 その沈みかけた船に手を差し伸べたのがセコムと森ビルだ。両者は共同出資して新会社を立ち上げ、1996年にマンション業者から正式に経営権を取得。サクラビア成城は再びスタートを切った。バブル景気が崩壊してから約5年後のことである。また翌年には介護保険法が公布された年でもあった。サクラビア成城の運営会社で取締役を務める松平健介氏(仮名)が言う。 「私は30年近くシニア向けビジネスに携わってきました。サクラビア成城のような場所がなぜ続けられるかというと、高い入居一時金をいただいているからです。高級と呼ばれる老人ホームは、だいたい5000万円くらいのレンジです。こういうビジネスはお客様の数が限られているわけですよね。部屋数かける入居一時金と月額費用が売り上げですから、規模が大きいほど実入りがいいわけです。ですので、よく聞かれるんです。『サクラビアさん建て増ししないの?』って」 確かに、近年大手ディベロッパーが手掛ける老人ホームは500室規模のものが多い。それは規模が大きいほど実入りがあるからであり、そうした利益で建物の修繕をし、運営費用に充てて事業を回していくことができるためだ。 裏を返すと、小規模かつ高額の入居一時金は、ひとたび空室が出ると大きな経営リスクを抱えることを意味している。サクラビア成城のように、入居一時金の平均が約2億円ともなれば、空室は経営面においてハイリスクになるともいえるだろう。 「年間で10名くらいの方がご逝去されているため、今は10室程度空いているという状況になっています」 実際にホームページを確認すると’23年12月末時点で、60平米前後の部屋が空室になっていると記載されていた。逆に、最上階の広い部屋や人気の角部屋などは既に満室だという。 松平氏の話で特に興味深かったのが、居住者の約30組が今より広い最上階の部屋や角部屋を希望しており、空室になるのを待っている状態が続いていることだ。つまり、空室が出ているといっても、それは60平米前後の部屋が中心であり、100平米超えの部屋は既に入居している者同士で確保競争が起きているというのである。常に上を目指すのは、裕福な高齢者の習性か、それとも優越感なのか。 ◆50代から部屋をキープする用意周到さ 「経営者の方々は、50代、60代の頃に、終末期のことまで考えておられて、経営されている会社をお子さんに譲られたことを契機に入居される方もいらっしゃいます」 将来を見越し、保証金の100万円を預けて部屋をキープしているという。まさに人生の上がりの場が、サクラビア成城ということなのだろう。 「親御さんに会いにお子様たちも通われてきます。その際に私どものサービスを体感されて、親御さんが亡くなられた後ここに入りたいと思っていただき、ご入居されるケースもあります。今までは、見学に来られて将来のために待機メンバーになられた方を中心に、ご入居の順番待ちをしていただいておりました。このため、いわゆる一見でご入居をご希望される方には入居していただけませんでした。ですから、新型コロナの影響で見学会の開催ができず、空室がある今が一見の方が入居できるチャンスなのです」 ただし、スーパーの安売りとは違い、約2億円もする部屋を衝動買いのように即時契約できる者はそう多くはない。 京都のお茶屋も、有名料亭も、銀座のクラブも、一見さんお断りという希少性が高級感を演出している。とはいえ、若いうちから安くない保証金を積んでまで部屋をキープするほどの魅力とは一体何か、私にはまだよくわからなかった。そして、どんな人物がサクラビアへの入居を許されるのか、興味が湧いた。 ◆〝品格〞と〝資力〞は最低条件 松平氏が言う。 「今お住まいの方々といい関係を結んでいただける方。やっぱり品格と、もちろん資力。それを面談の中で我々も見させていただきます。もちろんご検討されている方にも、ここが自分の人生を送るのにふさわしいところかどうかを見ていただく。お互い様ですよね。お見合いをして決めるということです。それから富裕層の方々はネットワークがあります。商売のお付き合いだったり、学生時代のお付き合いだったり、信頼されている方がお住まいになっていて、その方から『ここはいいよ』とご紹介いただくのが、ご検討されている方にとっても一番ですよね」 やはりというべきか、松平氏の「面談」という言葉に思わず反応した。 紹介者がいて、かつ十分な資力があっても面談を行うのだ。当然、面談となれば合否のようなものが判定されるわけだが、もし不合格の理由が品格だとしたら入居希望者は傷つきやしないか。そんなことを考えながら、入居の可否を決める基準について聞くと、松平氏はこう続けた。 「介護付き有料老人ホームの中でも、私どもは健常型といわれる非常に少ない種類に入ります。健常型にお入りできるのは、入居時点で身の回りのことがご自身でできるお元気な方です」 ただし、入居できるのは70歳からだという。また、70歳を超えていても既に介護サービスを受けている者は入居ができないそうだ。 さらに品格については、どういう基準なのか。松平氏の話を総合すると、共同生活であるため「俺が俺が」というように、人の話を聞かないタイプには、「お客様にとって、窮屈な暮らしになりますよ」などと伝え、遠回しに断ることもあるようである。施設側の基準で品格の良し悪しを見定めているのだ。 だが、それも当然といえば当然。他の一見さんお断りの「高級店」だって同じようなものだろう。むしろ不合格者から怒りを買わないように諦めてもらうテクニックを試行錯誤しているのかと思うと、その気苦労は想像に難くない。 取材・文:甚野博則
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