更年期以降の性交痛、ヒリヒリ、かゆみは「GSM」の可能性?女性泌尿器科医の第一人者が解説
GSMとは、閉経関連尿路性器症候群のこと。性交痛やフェムゾーンの痛みやかゆみ、さらに尿もれにも関係しています。GSMは閉経前後に誰にでも起こる可能性がある症状であり病気です。女性泌尿器科医の第一人者、関口由紀先生に詳しく聞きました。 *GSM=Genitourinary syndrome of menopause 【漫画】夫の浮気、セックスレス…失った自信を取り戻した50歳からの「トキメキ」閉経前後の体験談 ■頻尿、尿もれとフェムゾーンの乾燥、ヒリヒリ、性交痛は関係している! 更年期以降になると、頻尿、尿もれは多くの女性が経験します。頻尿や尿もれなどの尿トラブルは、エストロゲンの分泌が低下する更年期以降に増加し、40歳以上の約4割の女性が悩んでいると言われています。この頻尿、尿もれと性交痛や腟などフェムゾーンのヒリヒリ感や乾燥などの不快症状も無関係ではないのです。 「頻尿、尿もれのほかにも、再発性膀胱炎やフェムゾーン(外陰部や腟)の乾燥、ヒリヒリ感、性交痛などがあれば、GSM(閉経関連尿路性器症候群)かもしれません。GSMは、閉経後、女性ホルモンのエストロゲンの低下にともなって、フェムゾーン(外陰や腟)の粘膜や皮下組織の萎縮と脆弱化で、泌尿器や生殖器に症状が顕著に起こる病気です。症状は、フェムゾーンの乾燥、ヒリヒリ感、灼熱感、かゆみ、性交痛、尿失禁、頻尿・尿意切迫感、繰り返す膀胱炎など多岐に渡ります」と関口由紀先生。 ■GSMが起こる原因には、骨盤底の機能の低下があります これらさまざまな症状をもたらすGSMは、骨盤底の機能の変化に関係しています。骨盤底は、骨盤内の臓器を支えています。骨盤底の機能を維持することに、重要な働きをしているのが女性ホルモンのエストロゲンです。更年期以降、エストロゲンの分泌が減少することで、骨盤底は弱まり、尿もれ、尿失禁、骨盤臓器脱などさまざまな症状が起こります。女性が人生100年時代を健やかに生きるために、忘れてはならないのが骨盤底のケアなのです。 「骨盤底は出産・加齢などで機能が低下していきますが、GSMは、さらに骨盤底の機能低下を助長します。骨盤底は、恥骨から尾骨に広がるひし形のプレート臓器です。骨盤底筋群、筋膜、靭帯、皮下組織、粘膜などで構成されています」と関口先生。 骨盤底には、骨盤内にある臓器、膀胱や子宮、直腸を支える役割があります。また、排泄のコントロールも骨盤底の役割です。便意や尿意があると、骨盤底筋群がゆるみ、排泄します。ところが過剰な負荷がかかったり、締める筋力が低下したりすると、頻尿、尿もれなどの尿トラブルを起こすのです。 ■骨盤内にある臓器が腟から出て来てしまう! さらに、骨盤底の機能低下が進む70代以降に増加するのが、骨盤臓器脱です。骨盤臓器脱は、子宮や膀胱、直腸、尿道などの臓器が下がり、腟から出てきてしまう病気。腟がつられて裏返ってしまうこともあります。 「尿もれ、骨盤臓器脱などのリスクが高い人は、遺伝的な骨盤底の筋肉や靭帯の弱さ、妊娠、出産による骨盤底筋群の損傷、加齢による筋肉量減少、肥満、便秘、喫煙、慢性の咳、重いものを持ち上げる仕事などの生活習慣も関係します。GSMは、骨盤底の機能が低下する悪化要因のひとつです。骨盤底の機能低下は、自然には治りません。ケアをしなければ、トラブルはどんどん進行するのです」(関口先生) フェムゾーンの乾燥、かゆみ、痛み、性交痛、再発性膀胱炎、頻尿、尿もれなどのGSMは、自然に治ることはなく、放置しておいて、骨盤臓器脱と合併すると、症状はさらに悪化します。今は、症状の程度に応じて治療法が選べます。婦人科や女性泌尿器科で相談しましょう。 ■治療は進歩し、選択肢もたくさんあります 「軽い尿もれや頻尿なら薬を使わず、腟をゆっくり内側に引き込む骨盤底筋トレーニングで80%改善するというエビデンスがあります。呼吸法を加えた骨盤底筋トレーニングは、尿トラブル改善だけでなく、おなか周りの筋肉を使うので、姿勢もよくなり余分な脂肪もなくなります」(関口先生) 骨盤底トレーニングと併せて、インナーコアマッスルや下半身の筋トレ(スクワットやランジ)も効果的です。また、尿を溜められるようにする膀胱訓練も大切。尿意がないのに、こまめにトイレに行ってはダメ。膀胱に尿が溜められなくなります。1日4~8回の排尿で済むように、少しずつ我慢して間隔があけられるようにすることで膀胱の訓練になります。 「GSMに対するクリニックの治療では、健康保険が使える腟錠やホルモン補充療法もありますが、期待する効果が得られない人もいます。そこで、骨盤底筋群やじん帯の脆弱化による尿もれには、微量の男性ホルモンクリームを使う治療もあります。皮膚や粘膜の乾燥や萎縮による痛みやヒリヒリ感、性交痛などの症状には、弱い女性ホルモンクリームを処方することがあります。また、フェムゾーンの乾燥、萎縮、性交痛の対策として、外陰部と腟へフラクショナルCO2レーザーやエルビウムYAGレーザー等を照射する治療も行っています」(関口先生) ■セルフケアでオイルを使った腟マッサージも セルフケアとしては、特に腟の乾燥、萎縮や痛み、性交痛のあるGSMには、専用オイルで腟と外陰部をマッサージして、保湿をすることも有効です。指の第一関節までを腟に入れ、入り口周囲をグルっとマッサージします。 「当クリニックでは『LUNAエイジングケアセット』として性ホルモン様抗酸化物質を含有した美容液と、皮下組織のコラーゲン量を保つエストラジオールを配合したオイルを併用して使ってもらう治療も行っています」(関口先生) 今、この領域の治療は、どんどん進化しています。新しい薬ができ、種類も増えました。骨盤底のケアを今から始めて、それでもよくならなければ、躊躇せず女性泌尿器科を受診しましょう。 ■■お話を伺ったのは…関口由紀(せきぐち ゆき) 先生 女性医療クリニックLUNAグループ理事長 山形大学医学部卒業。横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学終了(医学博士)、日本大学グローバルビジネス科ヘルスケアコース修了(経営学修士)。現在、横浜市立大学医学部泌尿器科客員教授として女性泌尿器外来担当。日本泌尿器科学会専門医・指導医。著書に『性ホルモンで乗り越える男と女の更年期』(産業編集センター)ほか多数。 取材・文/増田美加(女性医療ジャーナリスト)
増田美加