「販売店に不当ノルマ」でハーレーダビッドソン日本法人に立ち入り検査…問題の元凶は車体へのこだわりを捨てた“マーケ偏重戦略”にあった
過去モデルと競合他社から何を学んだのか?
同様に水冷エンジンの「スポーツスターS」も鬼門となっている。希望小売価格は200万円近いが、中古サイトは走行距離10キロのものが車両価格130万円台で販売されている。 他にもハーレーのスポーツスターシリーズには「XL1200NS」(通称アイアン)と呼ばれるモデルがある。2018年から2021年まで販売されていたものだ。このモデルは中古市場で未だに200万円前後で取引されている。同時期に販売されていた「XL1200X」(通称フォーティエイト)に至っては、200万円台後半で販売されているものも多い。 スポーツスターの人気は地に落ちてしまったのだ。 いずれ空冷から水冷に移行しなければならないのは、時代の流れからも当然だが、ハーレーと言えば空冷。消費者に醸成されたそのイメージは、どこかで乗り超えなければならない。「スポーツスターS」の不振は、ハードルが長年培ってきたイメージからの脱却があまりに高かった証拠なのか。 ハーレーの水冷エンジンモデルはすでに市場投入されていた。2001年から2017年にかけて製造されていた「Vロッド」シリーズである。このシリーズは、現在でも中古市場で200~300万円台で取引されているほどの人気がある。 このモデルは冷却水の放熱を行うラジエーターを車体デザインに取り込み、エンジンに空冷のようなフィンを刻んでいる。そのため、見た目は水冷らしくなく、“ハーレーっぽさ”を保っている。一方、「スポーツスターS」にはそのような造形が少ない。特にエンジンのフィンのデザインは重要な要素にも関わらずだ。それは多くのメーカーがすでに証明していた。 日本で絶大な人気を誇るカワサキの「Z900RS」や、イギリス屈指のバイクメーカー・トライアンフの往年の名車を象った「ボンネビル」は、水冷エンジンにも関わらずフィンを設けている。これは空冷エンジンファンを意識し、飾りとしてつけているものだが、レトロ感を醸成してライダーを惹きつけている。 現在のハーレーはマーケティングを重視するあまり、車体へのこだわりが薄くなっている印象を受ける。 この苦境をいかにして乗り超えるのか、5か年計画の後半戦に注目だ。 取材・文/不破聡 サムネイル/Shutterstock
不破聡