「販売店に不当ノルマ」でハーレーダビッドソン日本法人に立ち入り検査…問題の元凶は車体へのこだわりを捨てた“マーケ偏重戦略”にあった
2023年度は営業減益で着地
ハーレーはブランドの強みに焦点を当てて新たな顧客開拓を行おうとした。それ自体は決して悪いことではない。ハーレーは「空冷Vツインエンジン」を積んだアメリカンと呼ばれるスタイルが主流で、映画『イージーライダー』や『ターミネーター2』などで登場するイメージが消費者の頭に強烈に刻み込まれている。 それがブランドの熱烈なファンを生んだのは間違いないが、年齢層は中高年が中心だ。そのため長期的に見ればジリ貧になるのは間違いない。ブランドの強さを堅持しつつ、消費者が想起するイメージを転換するという難易度の高い領域にチャレンジしていた。 2021年度の業績は急回復を期待させるものだった。売上高は前期の1.3倍となる53億ドル、営業利益は91倍の8億ドルに跳ね上がったのだ。しかし、翌期から停滞感が漂い始める。 2023年度は売上高が前年度比1.4%増の58億ドル、営業利益は同14.3%減の7億ドルだった。売上高は微増、1割超の営業減益である。営業利益率は15.8%から13.3%まで2.5ポイント下がった。 2024年度2Q(4-6月)の売上高は前年同期間比12.6%増の13億4800万ドル、営業利益は同8.9%増の2億ドルだったものの、営業利益率は18.5%から17.9%へと下がっている。 2021年に販売を開始したアドベンチャーバイク「パン・アメリカ」は、市場に出回り始めた当初こそ四半期で4000台前後を出荷していたが、現在は2000台にも届いていない。2023年は年間の出荷台数がわずか5128台だった。 また、同社の「スポーツスターS」も出荷台数は振るわない状態が続いている。
新品同様の車体が80万円引きで買える
2021年式「パン・アメリカ」は、国内の希望小売価格が230万円を超える高級モデルだ。しかし、オートバイの中古サイトを覗くと、走行距離わずか10キロの同じモデルが車両価格150万円台で販売されている。 一方で、アドベンチャーバイクで人気の高いBMWの「R1250GS」は、希望小売価格が220万円ほど。中古価格を見ると、数千キロ走っていても200万円台で取引されているものが多い。こちらは人気がまるで落ちていないのだ。 1250ccの「パン・アメリカ」は、間違いなくBMWのGSシリーズの市場を奪うべく開発されたものだろう。 BMWのGSシリーズはエンデューロと呼ばれる自然の地形を生かしたダートコースに最適化したもの。BMWは世界一過酷なモータースポーツ競技と言われるダカール・ラリーで1981年に初優勝し、このブランドの走破性と耐久性の強さを世界中に見せつけた。アドベンチャーバイクの分野では、先頭を走りつづけてきたメーカーだ。 強力なブランド力で市場を奪える自信があったハーレーはそこに殴り込みをかけたわけだ。しかし、アドベンチャーバイクの愛好家の間では、同じ排気量と価格、性能であれば、BMWを選ぶ人が多い。長年培った信頼があるからだ。 その上、ハーレーブランドに親しんだ人は、異形とも言える出立ちの「パン・アメリカ」に手は出さないはずだ。「ハーレー」の代名詞ともいえるアメリカンタイプとはまるで違うイメージだからだ。 ハーレーダビッドソンは安売り路線を改めたが、新規参入であるアドベンチャーバイクは例外とするべきだった。BMWと同様の価格設定にするのは無理があると言わざるを得ない。 パリダカでBMWと激しくやりあったホンダのアドベンチャーバイク、「アフリカツイン」は希望小売価格が150万円と安い。スズキの「Vストローム1050」も希望小売価格は160万円ほど。国内メーカーは価格によって競争力を高めている。 「パン・アメリカ」は女性ライダー(YouTuber)が、試乗して感想を語る動画を多く見かける。ハーレーがプロモーションでオートバイ初心者を取り込もうと苦心している状況が浮かぶが、実際に販売台数を見る限りは成功しなかった。その結果、販売不振となってディーラーへの過剰なノルマとなり、圧力をかけることに繋がったのだろう。