増え続ける市営住宅の空室問題を解決!? ひとり親やDV被害者、外国人など住まいに困っている人への居住支援、生活協同組合が窓口に 兵庫県尼崎市「REHUL(リーフル)」
自然と広がっていった支援団体の輪。団体同士の連携も
REHUL事業の開始当初、参加した支援団体は5団体でしたが、尼崎市からの紹介やコープこうべによる声かけなどで2024年4月時点では19の支援団体がREHULのネットワークに参加しています。参加団体は、空室活用と自治会支援が目的であることへの理解が必須で、支援団体のネットワークは今後も広がっていく見込みとのこと。 「『住まいに本当に困っている人をどうにかしたい』という思いを持っている人ばかりが集まってきます。人と人との信頼関係が大事ですね。それぞれの支援団体とコープこうべ、また支援団体同士も必要に応じて連絡を取り合っていますが、定期的な話し合いを設けて事例などを共有し、どのような対応をするべきかを話し合いながら協議しています」(前田さん) REHULの第1回ネットワーク会議の様子。最初は支援団体がお互いの活動を知り、ネットワークが広がって横串をさせれば、と考えてスタートしたが、あえて特別な機会を設けなくても必要に応じて自然につながっていった。今は事例を共有して対応の仕方を協議するなどしている。
以前から市営住宅に住む人とREHUL利用者、自治体それぞれにもたらされる効果
これまでREHULで提供された住戸の用途は、女性と子どもを支援する団体がDVにより娘3人と一緒に家を出た女性に部屋を提供したり、ネグレクト(育児放棄)家庭の支援をしている団体が家に帰れない子どもたちのために放課後に集まれる場所をつくったりとさまざま。
中には、REHUL事業の開始を心待ちにしていた団体が、事業を開始した2022年4月1日からすぐに利用したケースもありました。在日外国人の支援をしている団体で、ミャンマーからの留学生が卒業後に団体職員として働く予定でしたが、外国人であることを理由に民間で借りられる部屋が見つからなかったためです。 前から市営住宅に住んでいる人たちには、ネットワークに参加している団体の活動内容や利用する人たちのことを理解してもらうため、コープこうべは積極的に清掃活動に参加するなど、自治会への協力も惜しみません。自治会のイベントにも参加するのが利用者の条件のひとつ。最初こそどのような人が利用するかわからずに戸惑う住人から「自分たちは抽選でやっと入居できたのに」という声もあったそうですが、日ごろからコミュニケーションを取ることで、良い関係が築けています。 「生協がなぜ住まいの支援をするのか」という意見が内外からあるそうですが、コープこうべの前田さんは、「暮らしをつくっていくことが消費を産みます。人口が減って地域が疎遠になっていく中で、生協がこういうスキルを持っていることを広めていきたい」と話します。 「ゴーストタウンになりかけていた市営住宅で、いまは子どもや若い人たちが『ただいま』と帰ってきて、高齢の住人が『おかえり』と返す姿が見られます。同じ時間を共有しているからこその挨拶です。この事業がなければ、亡くなっていたかもしれない命もたくさんありました。その利用者たちが自治会に新しい風を吹き込み、活性化に役立っていると感じます」(コープこうべ・前田さん) 「コープこうべに間に入っていただくことで、手続きなどもスピーディーに進めることができ、また、自治会の人たちもREHULに対してとても協力的で、関係性はとてもうまくいっています。空室活用の視点においては成果しかありません」(尼崎市・篠原さん) REHULの活動は当面、尼崎市とコープこうべとの包括連携協定の期限である2029年までの10年間と定められているそうです。しかし、今後、建て替えた後の市営住宅やその自治会をどのように運営できるのかは、まだ決まっていません。 尼崎市の篠原さんは「いまREHUL事業は建て替えや廃止で募集を停止している住宅のみを対象にしていますが、ほかの市営住宅でも高齢化に悩む自治会の支援が必要になってくるのは間違いありません。建て替えや廃止の予定がない市営住宅も含めて、市内全域にREHULの取り組みを広げていけるように目指していきたい」と話します。 民間企業や団体などと協働して空いている市営住宅を活用しようとする動きは、近隣の自治体でも検討されているのだそう。さらに尼崎市の取り組みが先進事例として国の検討会やさまざまなメディアで取り上げられることで、全国にも広まりつつあるようです。今後の広がりに期待したいですね。 ●取材協力 ・尼崎市 ・コープこうべ
和田 文(りんかく)
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