【6月の八ヶ岳の楽しみ方】北八ヶ岳で「500種近いコケと高嶺の花々」に出合える極上の散策路を歩こう
■曇りや雨でも楽しめる、散策路のさまざまな高山植物
そんな「森」の区画をめぐっていると、いくつもの高山植物と出合うことができるのだから楽しくないわけがない。中には希少なものも多く、北八ヶ岳の環境の素晴らしさと厳しさの両面を実感することができるだろう。 そこで、梅雨入り直前のこの季節から初夏にかけて見ることができるいくつかの植物を紹介したい。 ニュウから中山峠に向かう山道に沿っては、イワカガミがびっしりだ。美しいピンクの花を、やや首を傾げて下に向けており、葉には鋸歯があるのが特徴。これに対してコイワカガミは横を向き、葉は丸いとされる。光沢のある葉を鏡に見立てたことから「カガミ」という言葉がもちいられた。なんとも洒落たネーミングだ。 コミヤマカタバミのミヤマは「深山」を意味しており、その名の通り、山深い亜高山帯の樹林で見られる。特徴的なのは、ハートの形をした葉だろう。ところによってはレッドデータの希少な植物でもあるけれど、ここまで歩いてきたハイカーは、その姿を間近で見ることができる。 シラビソやオオシラビソといった亜高山帯の針葉樹林に生育するオサバグサ。分布地のほとんどでレッドデータであるものの、八ヶ岳では多く見られる。薄暗い樹林を好むようで、シダのような葉が印象的。コケに覆われた岩にすっと立つオサバグサがいい感じで、思わずシャッターを切る。 針葉樹のツガ(栂)に似た葉をもち、サクラ色の花をつけることが、その名の由来といいうツガザクラ。岩場などにしがみつくようにしている姿が愛おしく感じる。雷鳥の好物らしいけれど、幸か不幸か八ヶ岳に雷鳥は、いない。 ということで、いずれも亜高山帯の深い山で育つ高山植物たちばかりであり、すべて登山道に沿って咲く花なのが嬉しい。じっくり鑑賞していると時間がいくらあっても足りない。ときにはピークハントではなく、植物や森の雰囲気そのものを楽しむのもいいものだ。 そんなゆとりのある山歩きを、ここ北八ヶ岳の原生林で楽しんでみてはいかがだろうか。 なお、森だからといってどこでも足を踏み入れてよいわけではない。こうして毎年のように楽しませてくれる植生ひいては森そのものの保護を念頭に、登山道や散策路からはずれないように歩こう。 <低山トラベラー厳選。菊花山周辺の立ち寄るべきスポット> 【南へ追いハイク】ニュウから中山、丸山を経て麦草峠へ 【北へ追いハイク】麦草峠から茶臼山、縞枯山へ 【日帰り温泉】帰りに便利な「八峰の湯」 【日帰り温泉】沢沿いの露天風呂が気持ちいい「横谷温泉旅館」 【参考書】白駒荘や麦草ヒュッテで購入できる「北八ヶ岳 コケ図鑑」 大内 征(おおうち せい) 低山トラベラー/山旅文筆家 土地の歴史や物語を辿って各地の低山を歩き、自然の営み・人の営みに触れながら日本のローカルの魅力を探究。ピークハントだけではない“知的好奇心をくすぐる山旅”の面白さとトレイルを歩く楽しみ方について、文筆と写真と小話で伝えている。 2016年よりNHKラジオ深夜便「旅の達人~低い山を目指せ!」に毎月レギュラー出演中。2022年よりLuckyFM茨城放送「LUCKY OUTDOOR STYLE~ローカルハイクを楽しもう~」のパーソナリティを担当している。NHKBSプレミアム「にっぽん百名山」では雲取山と王岳・鬼ヶ岳の案内人として出演した。著書に『低山トラベル』、『とっておき!低山トラベル』(ともに二見書房)、『低山手帖』(日東書院本社)などがある。 現在、テレビやラジオ番組のゲスト出演、雑誌やウェブマガジンの寄稿、登山講座の講師、地方自治体のプロジェクト参画など、低山に精通する第一人者として精力的に活動中。NPO法人日本トレッキング協会常任理事。宮城県出身。 @sei_ouchi
大内 征