再び沸騰した高校サッカー『ロングスロー論争』…なぜプレミアリーグで目にする機会が少ないのか? 大事なのはその“本質”だ
◇記者コラム「Free Talking」 冬の風物詩となった全国高校サッカー選手権大会の裏側で、「ロングスロー」に関する論争が再び沸騰した。 ◆凄っ…高知・西森のハンドスプリングスロー【写真】 「育成年代では制限すべきだ」「投げるまでに時間がかかりすぎる」「ルール上、何も問題はない」「得点のための有効な戦術の1つ」 試合に勝ちたい、好ゲームを見たい―という思いに、批判する側とされる側の差はない。ルールの範囲内で、なぜ毎回のように大きな議論になるのか。 「ロングスロー対策の守備の練習はしますが、攻撃(の練習)はあまりやらない」とは、初出場で4強入りした東海大相模(神奈川)の有馬信二監督。2011年に就任以降、丁寧にボールをつなぐパスサッカーを旗印に掲げ、高い技術力を持った選手たちが進化の基盤だった。 一方で、佐藤碧(3年)が放つロングスローも決定的な武器の一つだ。ただ、レーザービームのような“投球”は有効な得点源ながらも、彼らが自負するのは本分である「ボールプレー」を徹底して磨き、高めてきたことにほかならない。この対比こそが、実は論争の核心かもしれない。 もっとも、スローインは足で蹴るより球速や威力で劣るため、守備側は遠くへはね返しにくいという構造的な難しさがある。昨年のアジア杯で日本代表がロングスローに手を焼いたイラク、イラン戦を思い返せば、高校年代だけの話ではないことがよく分かる。 ロングスローに限らず、ロングボールやヘディングを多用する攻撃スタイルは、日本では“安直な肉弾戦”を好まないといった文脈で批判されているように思う。勝利至上主義がもたらす短絡的で機械的な手段として、否定的な見方が根深く渦巻いているのだ。 加えて、プレー外に目を向ければ…。逆サイドの選手が60メートルの距離を駆けつけ、給水でひと息つき、長身選手がゴール前に上がるのを待って助走を取り、ボールを拭いて―。それが繰り返されれば、実質的なプレー時間を削っているという批判は決して無視できない。 「キック&ラッシュ戦法」が伝統だったイングランド・プレミアリーグでロングスローを目にする機会が少ないのは、球を失う可能性とてんびんに掛け、単に優位性が低いと考えているからだ。ルールによる制限や感情的な非難ではなく、トレンドや潮流と同じように分析や対策、戦い方でロングスローを上回っていってほしい。もっとも、そんな“本質”については、誰よりも選手たちが理解しているように感じた。(サッカー担当・松岡祐司)
中日スポーツ