美輪明宏「見直されている〈昭和モダン〉。軍国主義によって奪われたことも忘れないで」
歌手、俳優の美輪明宏さんがみなさんの心を照らす、とっておきのメッセージと書をお贈りする『婦人公論』に好評連載中「美輪明宏のごきげんレッスン」。 11月号の書は「昭和モダン」です。 【美輪さんの書】美輪さんが書く「モダン」 * * * * * * * ◆昭和モダンとは 最近、昭和モダンが見直され、さまざまな展覧会が開かれています。若い世代にも注目され、当時のデザインを参考にするデザイナーもいるようですね。 昭和モダンは、1920年代から30年代に花開いた和洋折衷の文化のこと。当時ヨーロッパからアール・ヌーヴォーやアール・デコ、アメリカからはジャズやハリウッド映画など新しい文化がもたらされ、日本は大きな影響を受けました。 首都圏では関東大震災後の復興が進み、百貨店や地下鉄の建設が始まりました。街にはモダンでおしゃれなデザインの看板や広告ポスターが貼られ、洋装のモボ・モガが闊歩。文学の分野では川端康成や江戸川乱歩、夢野久作などが活躍しました。戦後に雑誌『それいゆ』や『ひまわり』を創刊した、私が大好きな友人の中原淳一さんも、昭和モダンの時代にデビューした画家です。
◆あの時代の空気が、私の美意識を育んだ 私は1935年に生まれ、家は国際色豊かな長崎でカフェーを経営していたので、まさに昭和モダンの申し子。店で流れているタンゴなどを聴きながら、絵を描いたりしていました。ロマンあふれるあの時代の空気が、私の美意識を育んだのです。 ところが日本は徐々に、軍国主義の時代に向かいます。太平洋戦争が始まると、「敵性文化を商売にするのは時局にそぐわない」と言われ、わが家はカフェーを廃業させられました。中原淳一さんも、目が大きくて西洋風の少女の絵が軍部から睨まれ、仕事の場を失ったそうです。昭和モダンは今見てもおしゃれなので、みなさんも見直してはいかがでしょう。同時に、あの素敵な文化が軍国主義によって奪われてしまったという事実も、頭の片隅に置いておいていただきたいと思います。 ●今月の書「昭和モダン」 (構成=篠藤ゆり、撮影=御堂義乘)
美輪明宏