EVかFCVかじゃない、2050年のトヨタ 寺師副社長インタビュー(4)
[映像]トヨタ寺師副社長インタビュー
トヨタ自動車が月面探査プロジェクトに乗り出す。その挑戦は、地上でのクルマ技術を月でも実現する「リアルとバーチャルの融合」だと、豊田章男社長の言葉を借りながら語るのは、副社長の寺師茂樹氏だ。電気自動車(EV)対応が遅れていると揶揄されることの多い同社だが、世界的な潮流である電動化という次世代戦略を、トヨタの技術トップはどう考えているのか。モータージャーナリストの池田直渡氏が余すところなく聞いた。全5回連載の4回目。 【動画】トヨタが描く“マイナス”エミッションの未来 寺師副社長インタビュー(5完)
◇ 30年先の未来。エネルギーのインフラは徐々に変わって行くだろう。パリ協定で日本が80%の温室効果ガス削減を目指す2050年、トヨタはどうやって戦って行くのだろうか? 現在の社会が排出するCO2を5分の1に減らさなければならないとすれば、当然、内燃機関は存続できない。というより、社会全体で経済活動を相当縮小せざるを得ないだろう。それはともかく、こと自動車だけに限っていうならば、水素社会の実現は極めて重要なパーツになるはずだ。 現在、トヨタが持っているFC(燃料電池)スタックはMIRAIに搭載される1種類だが、このスタックを使って排気ガスを出さない屋内作業に適したフォークリフトや、スタックを2台搭載した大型バスのSORAなど、FCVの適用範囲は広がっている。そのFCVはどのように発展していくのだろうか?
“EVの電池搭載量を減らしてFCスタックを載せれば、EVをFCVに変えることができる”
池田:ここまで、現在はHV(ハイブリッド)が現実的だけれど、その先でPHV(プラグインハイブリッド)でないと規制値がクリアできないだろうという話を伺いました。ただその、たぶん次辺りに、EV(電気自動車)とFCV(燃料電池車)が乗用車の主流に加わっていくだろうっていう話があるじゃないですか? 商用車の話はあとでお伺いしますけれども、そこにいくために今必要なこと、それからいわゆるFCVならではのメリットっていうところを、もうちょっとお話を。 寺師:ここまで、EVとFCVは別物じゃないっていうお話をしましたよね。けれどFCVの技術革新で、もっともっとコンパクトなスタック(発電心臓部)にして、安価な値段でつくるっていうのには、やっぱりものすごい時間が掛かると思うんですよね。だから、EVが先行してどんどん普及してくれて、あとからFCVが追っ掛ける構造になると思うんです。FCVのスタックとタンクをコンパクトにできれば、EVの電池搭載量を減らしてそこに載るはずです。すると、EVをFCVに変えることができるんですよ。 池田:それ、コンバージョン(後改造)ということではなくて、車種のバリエーションとしてFCVをつくれるということですね? 寺師:そうです。僕たちは今、来年ぐらいに出す第2世代のFCVをやっていますけど、第3世代ももう同時に開発していましてね。第3世代のFCVのタンクとかスタックは、他社のEVのパッケージをよく見てサイズを決めろって言っているんですよ。 池田:それはさっき言ったシステムサプライヤーとしてっていうことですね。 寺師:ええ、例えばEVの技術を持つ会社さんが「やっぱりこの地域はエネルギーの特性からいってFCVにして売りたいよね」ってなったら電池の量を減らして安くして、そこにFCのスタックとタンクを載せて、モーターはそのままでEVからFCVに変えてもらうというようなこともできるんじゃないかと。ただ、そのためにはいろんな会社のクルマのサイズに載るようなスタックでありタンクでないといけないんです。 池田:今、寺師さんが目標とされているサイズっていうのは、現状スタックのどのぐらい、何%ぐらいですか。 寺師:たぶん6割ぐらいになれば。ちっちゃいクルマ、大きなクルマ、真ん中ぐらいのクルマに搭載するには、電池の数を調整しているEVと同じように、スタック内部のセルの数で調整すれば良いんです。 池田:可変にするわけですよね。