世界GP王者・原田哲也のバイクトーク Vol.121「アコスタの走りに『もう勝てないな』と思わされた加藤大治郎を思い出す」
改めてペドロ・アコスタの化け物ぶりに震撼
……と、大ちゃんを思い出したのは、ポルトガルGPデノペドロ・アコスタの3位表彰台獲得を見たからです。彼は、化け物ですね。カタールGPでもポルトガルGPでも、ストレートエンドの1コーナーなど、ブレーキをかけながらのターンインが抜群にうまい! 普通なら曲がり切れずにコースアウトしてもおかしくないような場面でも、しっかりとマシンを減速させてコーナリングしています。 ポルトガルGPでマルケスを抜いた時などは、完全にフロントが切れ込んでいましたよね。気付いた人なら「転ぶぞ!」とヒヤヒヤするシーンでしたが、アコスタはしっかりとコントロールし、マルケスを押さえ込みました。 僕が思うに、アコスタは前後荷重に関するセンサーとバランス感覚がものすごく優れているのだと思います。ギリギリのブレーキングをしていると、「これ以上ちょっとでもフロントブレーキをかけすぎると、リヤが浮いて減速度が下がってしまう」とか「これ以上フロントブレーキをかけすぎると、フロントが切れ込んで転んでしまう」という場面が出てきます。ちょうどマルケスを抜いた時がそうでしたね。 そういう瞬間に、うまくブレーキ圧をコントロールして、行き過ぎないようにしています。恐らくブレーキをリリースしたりかけ足したり……とものすごく繊細な微調整を行っているのだと思いますが、僕にはちょっと想像がつかない世界です(笑)。 ただ、アコスタのマシンの挙動は極めてスムーズで、あれほどのブレーキングでもフロントフォークが沈むスピードはゆっくりにさえ見えるので、相当に丁寧な操作をしていることは間違いありません。短時間でのハードブレーキングですから、言葉にすれば「ガーンとかける」となりますが、その「ガーン」の中でもめちゃくちゃ丁寧な操作をしている、というイメージですね。 続けざまにフランチェスコ・バニャイアに襲いかかったアコスタは、1回目のアタックはミスしてはらんでしまいます。彼にとってもそれぐらい高度な操作、ということですね。でも2回目にはキッチリとバニャイアをパスしました。マルケスとバニャイアは両者とも偉大なチャンピオン。そのふたりを1レースで抜き去ってしまったのですから、まさに化け物です。 ──はらんでもタイムロスを最小限にとどめる技術もお見事。