大赤字の上場企業で社長が報酬を「月1億円」に増額!?横領、パワハラ、会社の私物化…大暴走が招いた“驚きの結末”とは
(4)勝手に投資・事業を開始 また、取締役会の正式なプロセスを経ることなく、前社長の独断で多額の投資や事業の開始が進められていたことも発覚しました。 約8億円の広告投資が行われたほか、適切な契約や資金管理が行われないままエステ事業を開始するなどしていました。また、事後的に、形式的な取締役会議事録を作成するという不正行為が行われた可能性も指摘されています。 (5)役員に対するパワハラ 前社長は役員に対して、「つぶしてやる」「能無し男」「家族も親戚も悲しむ」といった暴言を日常的に繰り返していました。これにより、社内には恐怖と混乱が広がり、健全な職場環境が完全に失われていました。 ● 前社長の横暴はなぜ可能だったのか 2つの問題点 これらの問題行為はなぜ可能だったのでしょうか。要因としては、以下の二点が指摘できます。 1. 前社長のコンプライアンス意識の欠如 上場企業において、経営者は会社を株主のものであると認識し、その利益を守る責務があります。しかし、調査報告書によれば、前社長の福村氏はこの責任を完全に無視し、自身の利益を優先していたといえます。この行為は、企業の所有者である株主を軽視したものであり、経営者としての資質に欠ける行動です。 さらに、前社長は利益追求が妨げられると、取締役らに対して悪質な人格攻撃や脅迫を行いました。調査報告書では、これらの発言は、「パワーハラスメント超える犯罪行為というべきもの」と厳しく指摘されています。前社長は、上場企業の経営者に求められるコンプライアンス意識が著しく欠如していたといわざるを得ません。
2. ガバナンスの欠如 もう一つ、取締役会や監査等委員会といったガバナンス機能が適切に機能していなかったことも大きな要因です。 社外取締役は存在していましたが、取締役会議事録が事後的に作成されるなどの内部統制上の問題が明らかになっても、これに対処する牽制機能は働いていませんでした。 前社長に異議を唱えた社外取締役は辞任や再任拒否に追い込まれ、結果として意見を言わない役員だけが残る状況が作り出されていたといえます。このため、取締役会は形骸化していたのです。 また、監査等委員会も実質的には機能しておらず、取締役会後に短時間だけ開催される形式的な会議にとどまっていました。問題点の積極的な探索や議論は行われず、形だけの存在となっていました。 さらに、内部監査室も形骸化しており、室長が内部監査業務を実施した形跡はありませんでした。内部通報制度も全く機能しておらず、従業員が不正を告発する手段が事実上存在していませんでした。 24年3月期の内部統制報告書にも「内部統制は有効ではない」と明記されており、同社のガバナンス機能の不全が公式に認められる形となっています。 ● 臨時株主総会で前社長の影響力を排除 事件が示す教訓とは? 24年8月、臨時取締役会において、当時経理部長であった下岡氏が福村氏を代表取締役社長から解職し、自らが代表取締役社長に就任しました。この決定により、会社再建への第一歩が踏み出されました。 現在、同社は前社長に対し、約2億円の損害賠償請求訴訟を提起し、不正に流用された会社資金の回収を進めています。 こうした中で12月20日に行われた臨時株主総会では、前社長の福村氏の取締役解任案が承認されました。一方、前社長側の影響力を増すことになると推察された新たな取締役や監査等委員の選任案については否決され、ガバナンス委員会の調査報告書でも求められていた「前社長の影響力排除」に向けて前進する結果となりました。 エルアイイーエイチで起こった事件は、企業におけるガバナンスの不備と経営者の倫理意識の欠如が、いかに深刻な危機を招くかを象徴する典型例です。この事件は、取締役会や監査機能が適切に機能しない環境下では、たった一人の経営者の暴走によって組織全体が崩壊し、社会的信頼を失う可能性があることを痛烈に示しています。 現在、新たに代表取締役社長に就任した下岡氏のリーダーシップのもとで、同社は信頼回復と再建に向けた歩みを進めています。従業員や取引先、株主といったステークホルダーからの信頼を取り戻すため、ガバナンスの強化や企業文化の健全化に全力を尽くしているようです。 同社が再建の道を歩む過程で得られる経験や成果は、多くの企業にとって貴重な教訓となるでしょう。エルアイイーエイチの今後の成功を心から応援し、その歩みに注目していきたいと思います。 ☆もっと詳しく知りたい方は以下のYouTubeをチェック!筆者が解説しています。
白井敬祐