ポルシェ918スパイダーのニュル最速ラップの記録を塗りかえたスーパースポーツ! ウラカン・ぺルフォルマンテは、どんなランボルギーニだったのか?【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】
それにても、アシの硬さにはびっくり!
【エンジン・アーカイブ「蔵出しシリーズ」】ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2017年8月号に掲載したランボルギーニ・ウラカン・ペルフォルマンテのリポートを取り上げる。6分52秒01という、当時市販車の中で最速のタイムをニュルブルクリンク北コースで叩き出したランボルギーニ・ウラカンのハイ・パフォーマンス・モデル、“ペルフォルマンテ”。その最大の特徴は、空力を自在に操る新開発のアクティブ・エアロダイナミクス技術の投入にあった。F1にも使われてきた高速テクニカル・サーキットのイモラで、その走りを満喫してきた。 【写真10枚】室内も外装も、いたるところがカーボンでつくられたウラカン・ペルフォルマンテ こんなところもカーボン! 写真で見る ◆もっともふさわしい場所 「スカルプテッド・バイ・ザ・ウインド(風によって形作られた)」というコピーがつけられた、ランボルギーニ・ウラカン・ペルフォルマンテの国際試乗会は、かつてサンマリノ・グランプリが開かれていたことでも知られるイタリアのイモラ・サーキットで開かれた。これまでポルシェ918スパイダーが持っていた市販車ニュル最速ラップの記録を約5秒縮めて塗り替えた、飛び切りのハイパフォーマンス・モデルを試す舞台としてこのサーキットが選ばれたのは、現在のランボルギーニの社長であるステファノ・ドメニカリ氏がイモラ市の出身であることや、本拠地サンタ・アガタからもそう遠くないことはともかく、なによりも、このマシンの最大の特徴である空力を自在にあやつる新開発のアクティブ・エアロダイナミクス技術を体感するのに、ここがもっともふさわしい場所であることによるものだろう。 名付けて、エアロダイナミカ・ランボルギーニ・アッティーヴァ(ALA)。アッティーヴァはイタリア語で翼を意味するというが、フロント・スポイラーとリア・ウイングの内部に設えられたフラップを電気モーターによって開閉させることで、強力なダウンフォースを発生させたり、それを減らしたりする特許取得済のこのシステムは、なによりも高速から中低速までの様々なコーナーがちりばめられた、高速テクニカル・コースでこそ真価を発揮する。その点、一周5kmほどの反時計まわりのコースに大小21のコーナーを持つイモラは、まさにお誂え向きだ。 試乗会は、ジャーナリストの運転する3台のウラカン・ペルフォルマンテが、インストラクターの操るマシンを追走しながら、一周ごとに順番を入れ換え、4周で1セットを繰り返す方式で行なわれた。私が乗ることができたのは5セットで、計20周も、このグランプリ・サーキットを走らせてもらえたのである。 ◆軽く、力強く、硬く、速い まずは、このクルマの成り立ちについて見ておこう。ウラカンLP610との違いとして大きく4つのトピックがある。(1)軽量化、(2)パワーアップ、(3)シャシーの強化、そして(4)空力のコントロールだ。 (1)の軽量化では、主に新素材の「フォージド・コンポジット」を内外装の多くの部分に取り入れることで、約40kの削減に成功している。これは、短繊維を混入したレジン(樹脂母材)を金属型で高圧プレス加工することによって作られるカーボンファイバー・コンポジット素材で、従来のものより若干軽量であるだけでなく、なによりも複雑な形状のパーツを短い時間でより簡単に作製できる点に特長がある。しかもランボルギーニでは、特許を取得した新技術により、表面処理の必要がないほどの平滑度を出すことができるのだ。ペルフォルマンテでは、フロント・スポイラー、エンジン・フード、リア・バンパー、ディフューザー、そしてステイを含むウイングに使われている他、内装にもこれでもかとばかりに使われているのが見て取れる。 (2)のパワーアップは、主に自然吸気V10エンジンの吸排気系のチューニングによって実現されたものだ。吸気効率を最適化する一方で、軽量なチタン製のバルブを採用し、リフト量を増やしたことで、シリンダー内の空気の充填効率をアップした。また、エグゾースト・システム全体を再設計し、重量を削減するとともに、排気パイプを中央よりの高い位置に変更し、見るからに抜けが良くなっている。その結果、LP610比40 ps増の640psの最高出力と4.1kgm増の61.2kgmの最大トルクを得たほかに、全体的にレスポンスも向上し、低速時のトルクの立ち上がりが良くなっている。 (3)のシャシーの強化は、(4)の空力のコントロールによって発生するダウンフォースを受け止めるためのものだ。スプリングの強化で垂直剛性を10%、アンチロールバーの強化でロール剛性を15%向上させたほか、ブッシュも50%硬いものに変更されているという。さらに電動パワステには、オプションで3種類のドライビング・モードに合わせてギア比を可変させるランボルギーニ・ダイナミック・ステアリング(LDS)も装着可能だ。4WDシステムや自動車両安定装置の介入も含めて、ストラーダではトラクションと安定性優先、スポルトはオーバーステア許容、コルサではなによりもサーキットでのパフォーマンス重視の設定になっており、基本的な前後トルク配分はストラーダが50対50、スポルトが40対60、コルサが45対55だという。タイヤは専用開発された新しいピレリPゼロ・コルサが装備される。 さて、一番重要なのが(4)の空力コントロールである。先にも触れたように、ALAと呼ばれるシステムは、フロント・スポイラーとリア・ウイングの付け根に2枚ずつあるフラップの開閉でダウンフォースを可変させるものだ。フラップを閉じた状態が基本(ALAオフ)で、その時には高速コーナリングやフルブレーキング時に必要なダウンフォースが発生する。最大垂直ダウンフォースは従来のウラカン・クーペ比750%増しというから半端じゃない。リアのウイングもオフ時は従来の固定式ウイングと同じ働きをする。 一方、ALAオンにするとフラップが開いて、フロントではスポイラーの空圧が削減されると同時に車体底部に空気が導かれ、ダウンフォースが低減。リアでは、ボンネットの上にあるエア取り入れ口から入った空気が、ウイングのステイの中に設けられた通路を通って、ウイング下部に設けられたスリットから出るようになり、これが気流を剥離させ、やはりダウンフォースを低減させる働きをするのだ。それによって、F1のDRSと同じように、直線での加速力やトップ・スピード到達力を大幅に高めることができる。 さらに、驚いたことに、リア・ウイングの中の空気の通路は左右のステイごとに分かれているのだが、二つのフラップを別々に開閉させることにより、コーナーのイン側にだけダウンフォースを掛けて、積極的に曲がりやすくするエアロ・ベクタリング・システムも付いているというのだ。ただし、これが使えるのはコルサ・モードの時だけだ。 ◆運転のしやすさは驚異的 ピットロードを先導車について走り出した瞬間から、サウンドとパワーの出方がこれまでのウラカンとは違うと感じた。ほとんど直管のようにまっすぐ、リアの高いところに排気管が突き出しているのだから当然といえば当然だが、驚くほど迫力のある勇ましい低音が聞こえてくる。アクセレレーターを踏み込んでいった時のトルクの付きも、低速時からきわめて良くなっていると思った。 コースに出て速度を上げていき、最初の高速コーナーを曲がった時には、すでにこれまでとは違う、路面に張りついているかのような強力なダウンフォースを感じていた。コーナー進入時に想像していたよりもずっとグリップが良くて曲がりやすいように感じられたのだ。その一方で、いざ直線に出てフル加速を試みた時に見せる凄まじいまでの加速感には呆然とさせられた。果たして、これがALAオンによるダウンフォース低減の効果によるものなのかどうかは分からないが、とにかく何かに吸い込まれていくかのように速い。 この時のモードはストラーダ。それでも十分に速いし、極めて走りやすいし、なんら不満はないと思った。次にスポルトにしたら、突如、クルマが豹変したように、ただでさえ勇ましいサウンドにさらに派手なバックファイヤーのような爆音まで加わったのには驚かされた。ステアリングやスロットルの操作に対するレスポンスも極めてピーキーになり、コーナーからの立ち上がりでスロットルを開けすぎると、どんどんお尻が出て行こうとする。正直に言って、これは安定して速く走るためのモードというより、ドリフト走行を見せるための演出モードという感じだ。 さらにコルサに切り換えて、最初に中速コーナーを曲がった時には、ヒヤッとさせられることになった。他のモードとは比較にならないくらい鋭くノーズの向きが変わるものだから、必要以上にインに入ってしまったのだ。これがエアロ・ベクタリングと可変ギア比のステアリングの効果なのかと気づいて、なるほどと頷いた。少し慣れが必要かもしれないが、うまく使いこなせるようになると、このモードが一番タイムを出すための走行に向いていることは明らかで、余計な演出が加わることなく走りに徹している分、スポルトより運転もしやすいと思った。 それにしても、これだけのハイパフォーマンス・カーをいきなりグランプリ・サーキットで走らせてこんなに楽しく運転できるなんて、なによりもその運転のしやすさこそが一番の驚異かもしれない。いまサーキットで運転を楽しむのに最高の1台であることは間違いない。ただし、実はこのあと1時間ほど公道走行も体験したのだが、公道ではあまりの足の硬さに面食らうほどであったことも蛇足ながら付け加えておこう。 文=村上政(ENGINE編集長) 写真=アウトモビリ・ランボルギーニS.p.A ■ランボルギーニ・ウラカン・ペルフォルマンテ 駆動方式 エンジン・ミドシップ縦置き4WD 全長×全幅×全高 4506×1924×1165mm ホイールベース 2620mm 車両乾燥重量 1382kg エンジン形式 V10DOHC(直噴+ポート噴射) 排気量 5204cc ボア×ストローク 84.5×92.8mm 最高出力 640ps/8000rpm 最大トルク 61.2kgm/6500rpm トランスミッション デュアル・クラッチ式7段自動MT サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル ブレーキ(前後) カーボン製通気冷却式ディスク タイヤ (前)245/30R20、(後)305/30R20 車両本体価格(税込) 3416万9904円 (ENGINE2017年8月号)
ENGINE編集部
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