横山剣 この名曲は、あの名車から生まれた!──クルマを切り口にCKBの新作を語る。あわせて、歴代愛車3選も発表!
根っからのカーガイである横山剣に、クレイジーケンバンドの新作『火星』とこれまでの楽曲を、クルマというフィルターを通して語ってもらった。 【写真の記事を読む】歴代愛車3選も発表!
かつての愛車や好きなドライブコースがモチーフ
クレイジーケンバンド(CKB)の通算24枚目となるニューアルバム『火星』が完成した。いつもながらに曲調はバラエティ豊かで、ライブ会場でのコール&レスポンスの様子が目に浮かぶアップテンポのナンバーから、過ぎゆく夏を振り返る胸キュンのメロディーまで、“東洋一のサウンド・マシーン”の面目躍如といったところ。 早速、横山剣にインタビューを申し込んだ。けれども、普通に話を聞くのではつまらない。GQは、「クルマ」と「ドライブ」という切り口で、新譜を語っていただいた。 「暑いなか、ありがとうございます」と深々とお辞儀をする、横山の誠実な人柄にふれてから、インタビューはスタートした。 『辻堂海岸』という曲の歌詞には、キャリアにサーフボードを載せているという設定でフォルクスワーゲンのタイプⅢが登場する。これは渋い。フォルクスワーゲンでもタイプⅠ(ビートル)やタイプⅡ(ワーゲンバス)はサーファーの定番であるけれど、タイプⅢを選ぶあたりがマニアックだ。 「23歳だったから1983年頃、グラナダレッドのタイプⅢに乗っていたんですよ。1969年型でした。FLAT4というショップでチューニングして、ちょっと速くしてもらって。タイプⅢにはノッチバックのセダン、ワゴンのヴァリアント、ファストバックのクーペの3つのボディがあって、僕のは一番不人気だったノッチバック。かつての愛車を思い出しながら歌詞を書きました」 フォルクスワーゲン・タイプⅢのノッチバックセダン。タイプⅠ、いわゆるビートルをベースに開発されたモデルで、正式名称はフォルクスワーゲン1500(または1600)であるけれど、現在ではタイプⅢと呼ばれることが多い。1961年の夏にデビューして、1973年まで生産された。 『Percolation』という曲もある。パーコレーションとは気温が高い時期にガソリンが噴き出すトラブルで、この曲もクラシックカーを愛する剣さんの実体験から生まれたのだろうか? 「パーコレーション、クルマ好きにはドキッとする言葉ですよね(笑)。ラ・フェスタ ミッレミリアに出たオースチン・ヒーレー100とか、オースチン・ヒーレー・スプライトといった英国車で悩まされました。この曲はクルマのパーコレーションから始まって、恋や温暖化のパーコレーションにも気をつけようと、表現を広げています」 『Rainbow Drive』では、楽しげなドライブの様子が歌われている。この曲は、実在するドライブコースをモチーフにしているのかを尋ねた。 「僕の好きなドライブコースが舞台です。横浜横須賀道路を逗子インターで降りて、逗葉新道のETCのない料金所で100円払って、三浦半島中央道からトンネル抜ければ相模湾が目に飛び込むT字路へ。歌詞に出てくるT字路は、ここをイメージしているんです」 では、どんなクルマで、どんな音楽を流しながらの『Rainbow Drive』なのだろうか。 「仲間と夕暮れ時に海沿いを走っているイメージの曲なんですよ。だから大人数で乗れるクルマ、ちょっと前のシボレーのアストロみたいなイメージですね。音楽は、そうだなぁ……、アイズレー・ブラザーズの『Summer Breeze』なんか似合いそうです」 アルバムのタイトルが火星で、ジャケットには1960年代のジャガーの傑作スポーツカー、Eタイプが使われている。このあたりのインスピレーションはどこから湧いてきたのだろう。 「ちょっと前にBEGINの(島袋)優くんのソロアルバムに参加したときに、鶴見区の沖縄タウンでミュージックビデオを撮影したんですね。昔、その近くに火星という名前の焼肉屋さんがあったのを思い出したんです。あの一帯って工場夜景で有名で、スペイシーな雰囲気なんですけれど、それと火星という文字や言霊が交錯して、自分の心のツボを刺激する場所になっていました。そろそろアルバムのタイトルを決めなきゃというときに、なにかプラットフォームになるような言葉を探していんですが、「火星」ってぴったりじゃん、これなら全国ツアーも「火星ツアー」となる。そんなスペイシーな気分にぴったりフィットするジャガーEタイプを友人から借りて写真を撮らせてもらってジャケットにした、という流れです」 マスタングと「タイガー&ドラゴン」 せっかくの機会なので、これまでの名曲に登場するクルマの話や、横山がこれまでに所有したクルマの話もきく。 まず名曲『GT』は、ジャケット写真にある通り、初代フォード・マスタングをモチーフにしているのだろうか。 「そうです。2002年に1965年型のマスタングを買って、うれしくなって第三京浜を走っていたらあの曲が生まれました。別の日には本牧方面から国道16号線を横須賀方面に向かったところで、今度は『タイガー&ドラゴン』も浮かんだんです」 マスタングから名曲が2曲も生まれていたのだ! 伝説の経営者、リー・アイアコッカが企画したスポーツ・スペシャリティカーが1964年にデビューしたフォード・マスタング。爆発的にヒットして、世界中にフォロワーが生まれた。初代マスタングは1969年まで生産された。 ではモナコの断崖絶壁をグレース・ケリーのように走ると歌う『太陽のモンテカルロ』はどんなクルマがモチーフなのか。 「あれは、ニースの空港で借りたレンタカー、プジョーの206でモナコの街を走ったときに浮かんだ曲です」 イタリー生まれのスパイダーというフレーズが登場する、『血の色のスパイダー』は? 「映画の『卒業』に出てくる、赤いアルファ・ロメオ・スパイダーをイメージしています。古いクルマが経年で劣化する様子と、自分の衰えを重ねあわせた歌ですね(笑)」 忘れられない愛車、ベスト3 最後に、横山剣がこれまでに所有したなかで、忘れられない愛車のベスト3をあげていただいた。 いすゞのベレット1800GT 1963年に発表されたいすゞ・ベレットは、ヨーロッパ車を思わせるデザインや、凝ったサスペンション形式がもたらす軽快なハンドリングによって、先進的なクルマ好きから人気を集めた。写真はベレット1600GT。 「まず、いすゞのベレット1800GTですね。最初は1600GTが好きだったんですけど、やっぱり200ccのアドバンテージは大きかったです。キャブレーターをイジったらすごく速くなって、最後は事故ってスクラップになっちゃったんですけど、『京浜狂走曲』というレクイエムを捧げています」 ホンダのアコード・エアロデッキ 1985年に発表された3代目ホンダ・アコードには、斬新な3ドアハッチバックのエアロデッキというモデルが存在した。長いルーフと切り立ったリアデッキを組み合わせた独特のデザインが特徴で、現在でも一部のマニアには熱狂的に支持されている。 「2台目はホンダのアコード・エアロデッキで、これはいまでも手放したことを後悔しています。スタイリングが非常にスペイシーでして、少しだけ車高を落としてロサンゼルス的なローライダーにして乗っていました。ホンダ車なのでやっぱりエンジンがすごく高回転まで回って、それも楽しかったです」 BMWの2002tii 1961年に登場したBMW1500はデビュー以降、1600/1800、2000/2000tiと排気量を拡大、1967年には2ドアモデルの2002シリーズ、通称マルニが加わる。BMW2002tiiは、写真のようにモータースポーツでも大活躍した高性能モデルだ。 「あと絶対に外せないのがBMWの2002tiiですね。tiiは2002シリーズが登場して何年か経ってから出たんですけど、たしか1971年だったかな。あれはものすごく速くていいクルマでした」 楽しいエピソードの数々に、あっという間にインタビューの予定終了時刻を迎えてしまった。 最後に、これから始まる「クレイジーケンバンド 火星ツアー 2024-2025」の意気込みを語っていただく。 「新しいアルバムから8曲ぐらいはやりたいんですけれど、久しぶりにアレもやってみようとか、カバー曲もやりたいね、なんて話をしているとひっちゃかめっちゃかになって、セットリストが決まらないんですよ。照明の方とか演出のスタッフからは早く決めてくれと言われているんですけど……。でも楽しいツアーにしたいですね」 来年の3月まで続くツアーで、クレイジーケンバンドは全国各地を巡る。「この曲はあのクルマから生まれたのか」と考えながらライブに参加すると、より深く楽しめるかもしれない。 『火星』 クレイジーケンバンド通算24枚目のアルバム『火星』は9月18日に発売。横浜の一大イベント“ハマフェス”のテーマソングである『ハマのビート』など、全16曲を収録。初回限定盤[CD+DVD]は¥7,975、通常版[CD]が¥3,575。 横山剣 クレイジーケンバンドは、1997年頃、横浜本牧の伝説的スポット「イタリアンガーデン」で生まれた。メジャー配給となった2002年の4枚目のアルバム『Gran Turismo』でブレイク、2004年、2005年と日本武道館公演を成功させる。ニューアルバム『火星』を引っさげて、2024年9月から2025年3月まで、「クレイジーケンバンド 火星ツアー 2024-2025」で全国をまわる。
写真・山田 陽 文・サトータケシ 編集・高杉賢太郎(GQ)