9月の日銀会合 「総括的検証」でマイナス金利の深堀りはあるのか?
「追加緩和」期待の盛り上がりはなし
以上、(1)7月29日のETF単独緩和の背景、(2)5日、8日の黒田・中曽両氏の発言を重視し、筆者はマイナス金利の深掘りおよび長期国債の買い入れ増額が見送られると予想します。 総括的検証は、概して自己肯定的な内容となり、これまでのプラスの政策効果を確認することが主となるでしょう。マイナス金利の撤回はおろか量的緩和の段階的縮小も見込まれません。一部には長期国債の買い入れペースを現行の80兆円ペースから70~90兆円に変更するとの予想もありますが、総括的検証が「2%の早期実現のために何をすべきかという議論であり、緩和の縮小という方向の議論ではない」と繰り返し断言してきた手前、テーパリングとみなされるおそれのある政策変更は今回のタイミングに適さないでしょう。これは最近になって黒田総裁が言及した「予見可能性」にも逆行することに加えて、「まだまだ買える」と豪語してきたこれまでの見解の根拠が疑われる事態を招きます。イールド・カーブのスティープ化を促すための技術的な調整、すなわちデュレーションの調整が唯一の政策変更になるでしょう。 もっとも、こうした日銀の実質ゼロ回答に対する反応が思いのほか小さくなる可能性もあります。日銀に残された弾が少ないことはほぼ全ての市場参加者の共通認識で、実際、日銀が3次元の追加緩和に踏み切るとの見方は少数派になりつつあり、もはやそれを複数回にわたって拡大していくとの見方は皆無です。このように追加緩和期待は盛り上がっていません。 市場の初期反応を予測する上では直近行われた9月の欧州中央銀行(ECB)理事会が参考になります。ドラギ総裁がこれまでのハト派バイアスを明らかに修正したにもかかわらず、市場の反応は債券市場と株式市場で調整売りが見られたのみで、EUR/USDはむしろ下落しました。追加緩和の余地が少ないことが共通認識となっていたため、失望の余地もまた限定的だったと解釈できます。皮肉にも「金融政策の限界論」が失望を回避に繋がった格好です。残された弾が少ないのは日銀もECBも同じで、両中銀は似たような困難に直面しています。それなら、市場の反応もまた似たものになる可能性があるでしょう。 (第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一) ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。