9月の日銀会合 「総括的検証」でマイナス金利の深堀りはあるのか?
5日の黒田総裁の講演と8日中曽副総裁の講演を分析
黒田総裁は「金融緩和政策の『総括的な検証』 ─ 考え方とアプローチ ─」と題した講演で、マイナス金利の波及効果について「最近では、期間が10年を超える超長期社債の発行や劣後ローンによる借入れが増加するなど、企業金融を巡る新たな動きも生じています」との実例を引き合いに、「<これまでのところ>、マイナス金利政策は、企業や家計の資金調達コス トの低下にしっかりとつながっている」(< >は筆者)とプラス効果を強調しました。 一方、マイナス金利の効果については「あくまで、『これまでのところ』であって、この先、貸出等の金利の低下にどの程度波及するかは、一概にはいえないということです」として、マイナス金利の政策効果が持続しないことに伏線を張るような表現を用いています。 また総裁は「預金金利がそれほど低下していない中にあって、貸出金利が大きく低下したということは、それが金融機関の収益を圧縮する形で実現している」、「マインドという面で(中略)経済活動に悪影響を及ぼす可能性には留意する必要があります」として、比較的踏み込んだ表現でマイナス金利の弊害を認めました。イールドカーブを巡る言及では「イールドカーブ全体にわたって金利水準が低下したり、短期金利と長期金利の差が小さくなることは、預貸金利ざやの縮小をもたらし、収益にマイナスの影響を及ぼします」と、イールドカーブの行き過ぎたフラット化が日銀の懸念事項であることを表明しました。イールドカーブのフラット化は市場参加者が長期にわたって低金利が続くと予想したときに起こる現象で、こうした下では一般的に金融機関の収益が圧迫されます。これまで一貫してマイナス金利のメリットおよび深掘り余地を強調してきた黒田総裁の発言は明らかにそのトーンが変化したと言えるでしょう。 それに追随するように8日の中曽副総裁の講演では、「<わが国の金融機関の場合>、(中略)マイナス金利が金融機関の収益に与える影響は<相対的>に大きいと考えられます」(< >は筆者)との認識が示されました。この「相対」がマイナス金利の導入が先行していた欧州との比較を念頭に置いていることは明らかですが、これは従来からの主張であった「欧州の例を参考にすれば、まだまだマイナス金利の深掘りが可能」、「マイナス金利の下限制約には、かなりの距離がある」というスタンスを修正したい意向が見え隠れします。 また「(マイナス金利導入等による)収益の金融機関体力への影響は累積的なものであることを踏まえると、このことは政策が継続する期間によっても変わりうるということもしっかりと意識しておかなければいけない」として、マイナス金利政策の持続可能性について触れるなど新たな表現が加わりました。マイナス金利の「深掘り」とその「持続性」がトレード・オフの関係にあるという理解の下、コスト・ベネフィットの観点ではマイナス金利深掘りがコスト増につながるとの認識でしょう(※最近、日銀はコスト・ベネフィットという言葉を多様して、金融政策の効果を議論しています)。