バケツの底が抜け始めたNHK受信料収入は1年で429億円減…全世界に売れば生き残れる"巨大鉱脈"の4つの番組
■2024年の4作は偶然か? 個別4作品はそれぞれ素晴らしい。それぞれの主人公が、何か障害があっても己の信念を貫く姿勢があるのが共通点と言える。そこに視聴者は共感している。 同時に筆者は、それが「2024年」に連発した偶然に驚いた。 今年はテレビがインターネットに量ばかりか質でも凌駕され始めた1年だった。情報消費のための接触メディアは、統計上もテレビではなくネットが上となった。衆院選や兵庫県知事選で顕在化したように、社会への影響力でもSNSなどネットが上を行った。そして民放キー局の多くは、ネット上でのビジネス展開に本腰を入れた1年だった。 一方、NHKは、受信料でバケツの底が抜け始めた。冒頭で触れたように、24年度の受信料は前年から429億円の減を見込み、ピークの7000億円から数年後の5000億円割れが見えてきた。 今年は5月に放送法が改正された。これでインターネットが「必須業務」に格上げされ、ネット受信料が地上波と同じ1100円と設定された(すでにテレビの受信契約を結んでいれば追加負担は発生せず、スマホやPCを保有しているだけでは契約対象とはならない)。 ところが現状で受信料を払っていない人々は、容易にネット受信料を支払うようになるとは思えない。つまりNHKは、受信料以外の収入をつくり出さないと組織を維持できなくなる。 そこに上で紹介した4作が登場した。 ポイントはいずれも新たな収入の可能性を示唆したことだ。以下、その可能性を最大化させるための私案を述べたい。 「光る君へ」は時代劇に現代的な要素を入れれば、世界で見られる可能性が高まるはずだ。24年はディズニープラスで配信されエミー賞も受賞した「SHOGUN 将軍」(主演・プロデューサー:真田広之)や、Netflixで配信された「忍びの家 House of Ninjas」(原案・主演:賀来賢人)が国内外でよく見られた。脚本や撮影にはこれまでのNHK大河とは異なる視点が必要だが、世界全体で視聴してもらうための工夫をすれば、日本を舞台にした時代劇は鉱脈となるのではないか。 「虎に翼」は社会における女性の地位の変遷物語だ。15分ではなく、1時間サイズ20話あまりの連続ドラマに再編すれば、注目する国がいくつもありそうだ。女性の地位の問題は、日本のみならず、世界で今もホットイシューであることに変わりはない。 「宙わたる教室」や「チ。」は科学の側面で勝負できる。科学の実験や歴史的な重大事件を物語に上手に配置すれば、上質なエンタメとなり視聴者の感動を呼ぶ。 しかも以上4作は民放ではやり難い。時代劇・法律・科学などはマスに訴求しにくく、視聴率につながりにくい。そう考えると、NHKは、民放と競合することなく番組を制作できるということにもなる。海外を対象とすれば、民業圧迫との批判も出にくい。 これまではNHKの番組制作者も視聴率というマスへの訴求を意識していた。ところがリアルタイムでテレビを見る人が全体的に減った今、番組は一部の層に深く刺さる内容が求められるようになってきた。 お笑いやスポーツとは違い、やや難しいテーマを扱うドラマ(作品)ゆえに全世代の男女には訴求しにくい。それでも80億人超の世界を相手にすれば、たとえ日本国内で視聴率1%に終わろうと、世界では8000万人に相当する。日本理解と外貨獲得に大きく寄与することは間違いない。 「光る虎に宙わたるチ。」 呪文のように唱えて番組制作の方向性を見直せば、今も5000億円以上の収入があるNHKには、新境地を切り開く余地がある。 「みなさまのNHK」に縛られて、実際には多くの人の見られない番組を作り続けるより、特定層を狙って尖った番組を作れば、副次収入が得られる時代が来ている。 そうした取り組みがうまく行けば、受信料の一段の値下げも可能になるかもしれない。何より外貨獲得の先頭を切り、日本理解を促進すれば、NHKの存在価値も高まる。受信料制度という仕組みばかりに固執せず、ネット時代に相応しい新たな体制を構築するべきではないだろうか。 ---------- 鈴木 祐司(すずき・ゆうじ) 次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 愛知県西尾市出身。1982年、東京大学文学部卒業後にNHK入局。番組制作現場にてドキュメンタリーの制作に従事した後、放送文化研究所、解説委員室、編成、Nスペ事務局を経て2014年より現職。デジタル化が進む中、業務は大別して3つ。1つはコンサル業務:テレビ局・ネット企業・調査会社等への助言や情報提供など。2つ目はセミナー業務:次世代のメディア状況に関し、テレビ局・代理店・ネット企業・政治家・官僚・調査会社などのキーマンによるプレゼンと議論の場を提供。3つ目は執筆と講演:業界紙・ネット記事などへの寄稿と、各種講演業務。 ----------
次世代メディア研究所代表 メディアアナリスト 鈴木 祐司