日本代表26歳は「もう少しやれた」 指揮官から評価上昇、移籍3か月で古豪のキーマンに【現地発コラム】
1部昇格を目指す古豪で果たさなければならない責任
リーズは、中2日での第7節と第8節で、立て続けにイーサン・アンパドゥとイリア・グルエフを、ともに手術を要する膝の怪我で失った。前者は、昨季リーグ戦全46試合に先発したボランチ兼CBで、キャプテンマークも付ける。昨季新戦力の後者も、同様の守備力でスタメンに定着。開幕から2ボランチで先発が続いた両MFの長期離脱により、チームは安定性と原動力の源を失ったことになる。 ところが、フォルトゥナ・デュッセルドルフから獲得された田中と、ボーンマスからレンタル移籍したジョー・ロスウェルが代役を務めることになったリーズは、第9節から両新戦力が2ボランチを組んで先発するようになっても、順調にポイントを重ねていた。その第1の立役者が、田中だと言える。 昨季の加入以来、絶対的な存在となっているアンパドゥのプレーは、2017年に16歳で移籍したチェルシー時代から目にしてきた。中盤深部におけるマイボールの扱い、ポゼッション維持による試合のコントロールにかけては、田中が一枚上のように思える。 個人的には、当初は絶望的とされた年内復帰の可能性が浮上しているアンパドゥとのコンビ結成が楽しみでもある。より守備的な相棒を賢明な守りで支援しつつ、チームの現ボランチ陣では最高のセンスを感じさせる攻撃面でも、貢献度を高められるのではないだろうか? まだ、イングランドでの挑戦が始まって3か月と経ってはいない田中だが、早くも主軸としての責任感が求められると言っても良い。 加入以来、順調に評価を高めてきた背景には、海外経験がドイツ2部に限られていた日本人としての未知数が幸いした部分があったかもしれない。しかし、チャンピオンシップのスピードにも、フィジカルにも予想以上の早さで適応し、オン・ザ・ボールとオフ・ザ・ボールの双方で、プレーの質の高さが認められるようになった今後は、及第点の出来では物足りない。 それが、通算3度のトップリーグ優勝歴を誇る古豪であり、プレミア復帰が当然と理解される現チームの主力。田中には、リーズのキーマンと化してプレミアを目指してもらいたい。スタメンとして初めて味わった敗北の無念に、下を向いていた頭を上げて。 [著者プロフィール] 山中 忍(やまなか・しのぶ)/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。
山中 忍 / Shinobu Yamanaka