年間200万人がアルコール依存を治療―依存者にセカンドチャンス与える米国
依存症者が互いをサポートし合う回復のかたち
合法的に身の回りにあふれ、周囲の人たちが日々当たり前のように口にするお酒を完全に絶とうとすることがいかに難しいか……。そんなアルコール依存症の克服に特化した団体に、AA(アルコホーリクス・アノニマス)があります(日本にも関連団体あり)。 Recovery.orgというサイトのまとめによると: (1)「12ステップ」という無料の治療プログラムを提供している (2)参加者が一連の回復ステップにしたがって、断酒を達成・維持する (3)自己を超えた大きな力といったスピリチュアルなアプローチをとっているが、それが「神」である必要はかならずしもない (4)ミーティングは教会や学校といった公共施設で行われることが多い (5)参加費は無料で必要なのは断酒したいという望みのみ (6)アルコール依存症であることが参加の条件だが、ミーティングには誰でも参加できる この(3)にある「自己を超えた大きな力」については、宇宙や自然、音楽、愛、AA自体などであっても構わないとされていて、その大きな力に自分の意思と生き方を委ねるというプロセスがあります。そしてその力に過ちを取り除いてもらう、という考え方です。米国はキリスト教が主流の国ですが、他にも多種多様の宗教が混在しており、かつ宗教自体に抵抗のある人もかなりいますので、12ステップもこの「神」の部分は柔軟に解釈できるという点をかなり強調しているのでしょう。 一方、代替プログラムもいくつかあります。たとえばSMART(Self-Management and Recovery Training)。無料のサポートグループを依存から脱したいと願う個人に提供する団体ということで、一見するとAAとほとんど変わらないようにみえますが、『スピリチュアルな部分』が大きく異なります。自分を超えた大きな力に回復を委ねるか、科学に基づいた方法で精神的な自立の力を高めるか、という違いです。 いずれにせよ、どのタイプのプログラムが合っているかは個人によりけりです。もともと何かの信仰を持っている人は、自分を超える力が「上からみている」という感覚がすでに備わっているでしょうから、AA方式は非常に理にかなっているといえます。アルコール依存症の治療に限らず、米国のリハビリ施設一般で「12ステップ」が主流派として普及しているのも自然なことなのでしょう。 筆者にも一人、ヒッピーやパンク、ディスコのスタジオ54といった時代をニューヨークで駆け抜けた元ドラッグ&アルコール依存症の知人がいます。もう30年以上も依存症と無縁ですが、自らを「アディクト(中毒者)」と呼ぶ人です。 「一度アディクトになったら生涯アディクト、だから1回のドラッグ、1杯の酒もやれない、やらない」という自分への戒めを込めてのことだそうです。彼は依存症の互助グループをAAミーティングで出会った親友と主宰しています。AAは「依存を神に置き換えるだけで、結局依存体質は変わらないのではないか」と違和感を覚えてやめました。 それで「自分を超えた大きな力」の要素を完全に排除、という点ではSMARTに近いけれど、ミーティング方法や期間など、AAも含む多様なプログラムを取り入れ、独自の方法で展開しています。