20代の休職者も増、医師が語る「教員の精神疾患」 年代問わず増えている「職場や保護者」の悩み
「8割回復」では復帰が難しい教員ならではの事情
――精神疾患で休職した教員の復職において重要な点についても、お聞かせください。 やはりラインケアは重要です。また、療養中に何らかの復職支援プログラムを利用してリハビリをしたほうが、その後の経過がよい場合が多いですね。 例えば、病院やクリニックで実施されているリワークデイケアがあります。外出するリズムをつくったり、仕事に近いデスクワークをしたり、病気の振り返りや再発予防の認知行動療法を行ったりします。そのほか、専門機関の公的なリワークもありますし、自治体によっては、勤務していた学校で復帰に向けた準備をする場合もあります。 ちなみに復職の際は所属していた学校に戻るという現校復帰の原則がありますが、発症の原因が職場にあるために現校復帰のハードルが高い場合も多く、その点は長年の課題となっています。 また、年度途中の復帰は動いている学校の流れに途中から入る難しさがあり、業務配置上の工夫も必要です。そのためご自身も学校も「なるべく自然な形で4月に復帰を」と年度始めを希望されることが多いのだと思いますが、実はあまりお勧めできません。4月は先生方が一番忙しい時期なので、本当はなるべく行事などがない時期の復帰が望ましいのです。 企業であれば部署替えや部署内の業務調整などで業務の軽減が図りやすいですが、教職員はどうしても、数十名の子どもを前に毎日数時間の授業をする必要があり、子どもだけでなく保護者にも対応しなければなりません。そのため、教員の場合は、確実に業務遂行能力が回復していないと戻れないという難しさがあります。 私たち医師も通常なら8割回復していれば「復帰可能」と診断するのですが、教員の場合は8割ですと、復帰してもすぐに再休してしまうことが多い。だからこそ、充分準備して復帰することが大切になります。
5月だけではない!6月・8月・9月・11月も注意
――5月病と言われますが、とくに初任者や異動などで環境が変わった教員は、この時期に体調を崩しやすいのでしょうか。 はい、4月の疲れが5月のGWにどっと出るのはよくあること。経験上、2学期が始まる直前の8月末~9月、行事のピークを乗り越えた時期に当たる6月や11月も教員は不調に陥りやすいです。教職員と児童生徒が不調になる時期は連動しており、注意が必要です。 疲れが2週間以上取れない方は、受診をお勧めします。食欲が落ちてきた、なかなか眠れないと感じる場合や、平日は頑張って週末に寝込むという方も注意したほうがいいでしょう。 ――メンタル不調の予防策について、アドバイスをお願いします。 日頃から睡眠をしっかり取って、しっかり食べること。過重労働で体調を崩す原因のほとんどは睡眠不足です。教頭先生くらいになると4時間睡眠の方も多いですが、7時間は寝てほしい。せめて5時間は必要です。学校行事などに120%の力を注がないことも大切ではないでしょうか。頑張りすぎると、気を張っていてもどこかで疲れが溜まっているものです。 また、もし悩みがあっても引きずらないこと。悩みについて考えている時間が長いほど、病気になりやすいです。気分を切り替えるためには、ウォーキングやスポーツなど身体を動かしてリセットすることをお勧めします。アルコールは控えめにしましょう。 学校はエンドレスで対応を求められるので、その点も何とかしたいものです。ただ、学校だけで切り替えることは難しいかもしれません。そこはやはり国や教育委員会が介入して、部活動や保護者対応に制限時間を設けるなど、トップダウンで行うべきではないでしょうか。 (文:國貞文隆、注記のない写真:EKAKI/PIXTA)
東洋経済education × ICT編集部