イエメン、「幸福のアラビア」いつの日か(2) ~ザ・アラブな空気とカートの嗜み~
年明け早々、米国がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したことで、「第3次世界大戦」の勃発もささやかれるなど、中東情勢が緊迫の度合いを増しています。そして、このイランと関係が深いとされる「フーシ派」が首都を支配する国にイエメンがあります。国内を舞台に続く戦争によって、深刻な人道危機に見舞われているにもかかわらず、国際的なニュースになることも少ないことから「忘れられた戦争」と言われることもあるようです。 かねてよりイエメン難民の取材などを続けてきた写真家の森佑一さんは昨年8月、初めてイエメンを訪れ、同国内を旅しました。中東各地で起きている様々なことは、一見すると別々に起きているようにも見えますが、実は相互に関連しているケースは少なくありません。中東情勢の緊張感が高まる今、森さんに戦時下にあるイエメンで見聞きしたことをルポしてもらいます。
穏やかな時間が流れるハドラマウト
イエメン入国から3日。 イエメン北西部を目指し、車は砂漠が広がる道をひたすら走っていた。ドライバーが運転するのはトヨタの四駆。イエメンでも日本車は健在だ。 中東において親日感情を作り出すのに一役買っているのは、日本車をはじめとした質の良い日本製品で、国際協力に一番大きな役割を担ってきたのは、海外に出たこともなく、日本国内でひたすらものづくりに没頭してきた職人気質の技術者なのではないか。そんな物思いにふけりつつ、時折ある軍の検問で止められないかとそわそわしたり、道路にできた大きな窪みに急に差し掛かってひやひやしたりしながら進んだ。 マハラ州南部の海岸線を走っている時は緑が多く、風が心地よく快適だったが、内陸に位置するハドラマウト州に差し掛かると日差しが強くなり、空気も中東独特の乾いた暑さを帯びてきた。温度計を見ると30度を超えていたが、イエメンではこの時期は夏の終わりらしい。 ふと気づくと、広大な砂漠の向こうに岩山が連なっているのが見えた。中東と聞くと、乾燥気候で茶色い砂漠が広がる景色を思い浮かべてしまうが、まさにその光景だった。