コロナはにくんでも、豚まんはにくまんで下さいーー支援物資にもなった町中華の名物、誕生の軌跡
震災、台風、コロナ。福島県いわき市にある町中華の名店は度重なる災禍に見舞われた。たどりついたのは「豚まん」。お店で出すメニューとしてはもちろん、冷凍保存しておけば支援物資として渡せる。それはいつも支援される側だった立場からの逆転の発想だった。コピーは「コロナはにくんでも、豚まんはにくまん」。2代目料理長の奮闘記をお届けする。(フリーライター・杉山元洋/撮影・岩波友紀/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
毎日100個、多いときで200個包む豚まん
真っ白な小麦の生地を広げ、大きな豚肉入りの餡をのせる。そして、指先で花のつぼみのように包み、25分間蒸す。吉野康平さん(41)が蒸し器を開くと、甘い豚まんの香りが厨房に立ち込め、華正樓(かせいろう)の一日が始まる。
華正樓は緑豊かな夏井川のほとり、福島県いわき市にある創業38年の中華料理店。料理長の康平さんも、創業者で父親の和久さん(67)も首都圏の名店で修業した。 旬のいわき野菜も取り入れた本格中華を気軽に味わえるとあって、地元はもちろん、東京など遠方からも客が訪れる。
「豚まんは毎日100個、多いときで200個包みます」 そう話す康平さんが豚まんを毎朝大量に仕込む理由は、東日本大震災以降の10年間に経験した数々の災害にある。
2019年10月、台風19号がいわきを襲い、激しい雨で夏井川が決壊。店内には、1階の天井近くまで水が流れ込み、周辺地域にも大きな被害が出た。 厨房や客席は使用不能になり、創業以来守ってきたラーメンのしょうゆダレも流されてしまう。弱音を吐かない和久さんですら閉業を口にした。
「多くの知人が瓦礫の撤去や店の片づけのため駆けつけてくれ、料理人仲間は豚汁やカレーなどの炊き出しをしてくれたんです」 温かい食べ物に心も体も救われた康平さんは、炊き出しをする料理人たちの姿が気になった。 「じっと順番を待つ子どもやお年寄りを見て、料理人として何もできない悔しさがこみ上げてきたんです」 食べ物がない怖さと、食べ物さえあればなんとかなることを思い知った。点心作りが得意な康平さんは、豚まんが災害時に優れた非常食になると気づく。 「豚まんは栄養豊富で腹持ちがいい。冷凍で保存でき、ガスや水道が止まっても炊き出しの道具でアツアツを提供できる。豚まんを困った人に届けることが、被災した自分を支えてくれた方々への恩返しにもなる」