コロナはにくんでも、豚まんはにくまんで下さいーー支援物資にもなった町中華の名物、誕生の軌跡
康平さんは逆境の中でもなお前向きだった。 感染拡大の報道に「日本はどうなるのか」と、日常生活をするだけでも大変なのに、最前線に立たされた医療関係者の苦労は計り知れない、という思いが募った。 「被災して分かったのは、『できることをやる』という当たり前のこと。食べ物で医療関係者を少しでも励ますため、豚まんを食べてもらうことが今できることだと思いました」
豚まんコピーの誕生
休業中の厨房で康平さんは、ミャンマー人スタッフのウイン・ト・ツ・ウーさん(29)とひたすら豚まんを包み、いわき市内の4病院に合計で500個の豚まんを届けた。 「『非常時に不謹慎だ』と怒られるかな……と悩みましたが、食べ方の説明書の裏に『コロナはにくんでも、豚まんはにくまんで下さい。』と、ダジャレを一筆入れてしまった」 後日、華正樓の常連客になった病院スタッフから、「食べるときにみな笑ってしまいました」と聞いて康平さんは「勇気を振り絞ったかいがありました」と破顔する。
「ストレスを感じたときこそ、くだらないコミュニケーションが求められる」 康平さんの気づきは、コロナ禍を過ごす人々の共感を集めた。 2020年5月10日の母の日、テイクアウト限定で豚まんの販売を行った。店内での飲食は自粛しているものの、久しぶりの営業とあって用意した豚まん100個は飛ぶように売れた。完売後も来店した客のために、追加の豚まんを急いで包み蒸し上げた。 そのうちの客のひとりが持ち帰った豚まんを、「コロナはにくんでも~」のリーフレットとともにSNSに投稿。豚まんと「コロナはにくんでも、豚まんはにくまん。」の文字がネットを駆け巡り、ツイッターに飛び火して約3万リツイート、12万いいねの大反響を呼んだ。さらに朝日新聞の『天声人語』にも取り上げられた。
豚まんを被災した病院に
災害用食料として豚まんが役立つ日も実際に訪れた。2021年2月13日の深夜、福島県沖を震源とする大きな地震が発生した。どこかで必要になるだろうと、康平さんは大急ぎで豚まんの出荷準備を始めた。そこに、宮城県で医療関係の仕事をしている友人の林怜史さん(41)から、「病院が断水と停電で困っている」と連絡が入った。