能登地震からの施設再開へ模索続く 雇用維持に重い負担(寿福祉会、輪島市)
「1年はあくまで暦で区切っているだけ。実情は全然変わっていない」。2024年1月1日に能登半島を襲った大地震から1年。被害を受けた石川県輪島市の社会福祉法人寿福祉会、北野和彦理事長はそう話す。 同法人は市内4拠点で高齢者福祉サービスを提供していた。発災時、計300人近くいた入所者は県やDMAT(災害派遣医療チーム)などの支援により1月中旬には避難施設に移り終えた。その後、1日も早い復興を目指して取り組んでいるが、道のりは遠い。 4拠点のうち老人保健施設「百寿苑」(定員104人)は地盤沈下や建物の半壊などのため廃止することを決めた。特別養護老人ホーム「みやび」(60人)は家屋の倒壊が多かった町野地区にあり、多くの職員も被災した。9月の豪雨災害にも見舞われた。デイサービスは再開したが、特養部分は今年6月まで震災関連業者に賃貸することになっており、7月以降の対応は検討中だ。 地域密着型特養(29人)、グループホーム(18人)、有料老人ホーム(37人)などの複合施設「福祉の杜わじま」も休止している。一部を震災関連業者に賃貸しつつ、地盤沈下と建物の修復工事をしているが、再開は早くて今年5月になる。入所施設で唯一再開している養護老人ホーム「ふるさと能登」(50人)も、暫定措置で養護老人ホーム21人、特養29人の定員で運営している状態だ。 市内唯一の老健である百寿苑に加え、みやびも廃止となれば市内で計164床の介護の受け皿がなくなってしまうため、北野理事長は「再開して入所者が確保できるのか。ニーズを把握しないといけない」と苦慮している。 ■震災で職員は半減 職員は震災前に4拠点で270人いたが、現在は半数の137人。そのうち79人は休職中で、雇用保険の特例措置による手当を受給している。その手当には社会保険料(労使折半)が掛かり、震災後からの累積で法人の負担は数千万円にも上る。北野理事長は「事業は休止しているのに社会保険料を徴収するのはおかしい」と訴え、各所に相談したが、取り合ってもらえないという。 79人の職員を確保していれば施設を再開する時に困らないが、数千万円にも及ぶ法人負担が発生するなら職員を解雇して再開時に採用した方がよかったのか。正解は分からない。 震災前、法人の収益は約14億5000万円あったが、約7割落ち込み、福祉の杜わじまの修復工事だけで約3億600万円掛かる。災害対策基本法の激甚災害指定により6分の5の補助はあるが、社会福祉事業ではない有料老人ホーム分の8000万円は対象外。今後の行政の査定次第では自己負担が増える可能性もある。 経営を立て直し、入所者が安心して生活できるようするには、まだまだ壁があるが、北野理事長は「必要な事業であり、やめることはない」。この決意は1年たっても揺らいでいない。