夢はろう者として仮面ライダーに出ることーーろうの俳優が聴者と切り開く新しい世界
「その大変さははじめからわかっていましたし、その分稽古期間を長くとっています。俳優たちには、自分がふつうだと思っていることを一度疑ってから稽古場に来てほしいと言っています。ちょっと立ち止まって、相手についての想像力を働かせることが、この世界に自分と違う他者がいることを考えるきっかけになります。確かに効率は悪いけれど、あの10分は意味のある10分なんです」 3号さんは、ろうの俳優のせりふ=手話を、聞こえない観客はもちろん、聞こえる観客にも届けようとしている。そのために『テロ』の演出にはある仕掛けがほどこされている。 「成功するかどうかは俳優にかかっています。『みんな、頼むで』という感じです」
ろうの俳優を起用するという発想のある人が少ない
公演を主催するKAVCの担当者の平川光江さんによれば、『テロ』のオーディションには82人の応募があった。 「障害をもった方を迎えるのははじめてのことで、ものすごく緊張していました。でも、聞こえていなかったり見えていなかったりする人がいれば、まわりの人が自然に動いて声をかけてあげていて、オーディションってこんなに温かいものだったかと思いました」 聞こえる人が鑑賞する作品にろうの俳優が起用されにくいことについて、3号さんはこんなふうに言う。 「ぼくの感覚では、ろうの俳優に出演してもらおうという発想をもっている人が少ないんだと思います。それに、仮にろうの俳優さんを呼んでみようと思っても、そこからのハードルが高いと思う。ぼくもはじめて聴覚障害者センターを訪れたときは、指が震えて、せっかく覚えていった自己紹介の手話も全然できませんでした。でもそれは当たり前だと思います。やってみればたいしたことじゃない。文化が違う、言葉が違うというだけだから」 「ぼくも手話を始めてまだ2年だし、わかっていないことも多い。でも、ろう文化に出合ったおかげで作家性が広がったという恩があります。ろうや難聴の人を代表することはできないけど、彼らが声を出せる場所をつくることはできると思っています」