活況に沸いた初場所を振り返るー来場所は楽しみな1横綱4大関に
大相撲初場所は横綱照ノ富士の4場所ぶり制覇、関脇琴ノ若の大関昇進と新年から大いに盛り上がった。琴ノ若の祖父は元横綱琴桜(故人)、父が師匠でもある佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)という血筋もクローズアップされ、看板力士になるまでの道程や伝達式の口上も話題を呼んだ。そして、3場所連続休場明けで一人横綱の使命を果たした照ノ富士。カムバック優勝によって角界へ波及する流れとは。15日間満員札止めだった初場所のトピックを、いろいろな角度から振り返った。
あの横綱に通じる心意気
琴ノ若の千秋楽は、昇進を手中に収めたにしては珍しい様子だった。本割では素早い動きが身上の翔猿を落ち着いてつかまえて上手投げで下し、13勝目を挙げた。これで昇進の目安とされる直近3場所の勝利数を33に乗せた。しかし、初優勝を懸けて臨んだ決定戦では照ノ富士に屈した。先にもろ差しの体勢になったもののすぐに打開され、反対にもろ差しを許して寄り切られた。何もできず、大きな力の差を感じられた。 打ち出し後、日本相撲協会審判部が昇進を諮る理事会の開催を八角理事長(元横綱北勝海)に要請して受諾されたため、この時点で昇進は事実上決定した。それでも、琴ノ若の表情には反省の色が濃かった。技能賞のテレビインタビューで次のように語った。「昇進の声をかけていただいたのはうれしいですけど、やっぱり結果が全て。まだまだ力不足でした。しっかり来場所へ準備して出直してきます」。淡々とした口調で感情を押し殺していた。 同じように、新大関昇進を決定的にしながら千秋楽に悔しさ全開だった力士がいた。稀勢の里(現二所ノ関親方)だ。2011年九州場所。14日目に10勝目を挙げ、千秋楽の取組前には場所後の大関昇進が確実となっていた。最後の相手は大関琴奨菊で左差しを許して後退し、黒星を喫した。戻ってきた支度部屋。「引いちゃった」とつぶやいて以後の約10分、報道陣の質問に答えることができず一筋の涙がほおを伝った。看板力士になる歓喜よりも、当日のふがいなさへの思いが前面に出ていた。 この場面に象徴されるように、土俵への真摯な態度を貫き、稽古に励んだ。のちの飛躍は周知の通り。2017年初場所で初優勝し、日本出身者として1998年の3代目若乃花以来19年ぶりに最高位を射止めた。第72代横綱に就き、フィーバーを巻き起こした。26歳の琴ノ若は昇進2場所目となる5月の夏場所から、祖父のしこ名を継いで「琴桜」を名乗る予定。189センチ、177キロの体を生かし、向上心を糧に最高位を目指すことが期待される。