活況に沸いた初場所を振り返るー来場所は楽しみな1横綱4大関に
人前でつらさ見せず9度目V
照ノ富士の優勝は横綱の威厳を明確に示す形となった。7日目に2敗目を喫したものの、8日目からは白星街道を走った。特に12日目に新入幕で賜杯レースに絡んできた大器の大の里、13日目に琴ノ若、千秋楽の本割で大関霧島を圧倒したのは秀逸。優勝決定戦は先述の通りで、胸突き八丁の最終盤でいかんなく本領を発揮する圧巻の取り口だった。 けがで幕下へ落ちていた2人が、カムバックを強烈に印象づけたのも見逃せない。昨年3月の春場所で右膝前十字靱帯損傷を負った元関脇の若隆景。4月に靱帯再建手術を受け、診断書は「約5カ月の加療を要する見込み」。リハビリを重ね昨年11月の九州場所で東幕下6枚目から本場所に戻り5勝した。そして初場所で7戦全勝。幕内優勝経験者として2019年九州場所の照ノ富士以来2人目の幕下制覇を果たし、次の春場所での再十両を決めた。 もう1人が伯桜鵬。鳥取城北高時代に2度の高校横綱に輝いた逸材は、幕下15枚目格付け出しデビューから所要3場所で、昨年7月の名古屋場所で新入幕を果たした。この場所で12勝の大活躍。豊昇龍との決定戦で負けたが109年ぶりとなる新入幕優勝の夢を抱かせた。ただ、8月末に左肩の手術を受け2場所連続で全休した。初場所は師匠の宮城野親方(元横綱白鵬)に直訴して出場し、西幕下5枚目で6勝1敗。こちらも関取に返り咲きた。 思えば、照ノ富士が両膝のけがなどによる5場所連続休場から序二段で戻ってきたのは2019年春場所だった。観客もまばらな館内を引き揚げ、悲壮な決意を次のように発した。「普通に歩くということも厳しかったです。ちょっとずつ状態を上げていくしかない。人の前ではつらさは見せられません」。5年後の今、膝に爆弾を抱えながら一人横綱を張り続け、優勝回数を9に伸ばした。このカムバックを鑑みると、若隆景や伯桜鵬の復活劇はまだ始まったばかりだ。テレビ視聴率も好調で活気づいた土俵。復活組が幕内へ戻り、大の里や熱海富士をはじめ若手らと相まみえる状況になれば、1横綱4大関となる春場所以降もますます関心の集まる興行が続くことになる。
高村収