「色々あるけど欲しいものがないヴィレヴァン」と「自分のための場所と感じるタワレコ」…巨大カルチャー企業の明暗を分けた「本質的な差」とは?
これによって、そのアーティストのコアなファンが店舗に足を運び、店舗での消費が伸びている。全国のタワレコでは年間で約1万回に及ぶライブが行われていて、今やそこは「ただのCDショップ」ではなく、「推しや推し仲間同士との交流場所」のような「スペース」としての価値を持ち始めている。 例えば、その本拠地ともいえる渋谷店は、2階がコラボカフェとなっており、5階と屋上がイベントスペースで、CDショップとは思えないほどだ。これだけでも、いかに同社が「スペース」としての価値を押し出す店舗になっているのかがわかるだろう。
いわば、現在の「推し活」ブームに歩調を合わせるようにして、「体験価値」および、そこに価値を感じる人々に「選択と集中」したことがタワレコの復活に大きな力を果たしたのである。 ■音楽のデジタル化がタワレコの変化を生み出した タワレコが、「応援する人を応援する」方向に振り切った背景には、2000年代以後に進んだ音楽のデジタル化がある。 2001年には初代iPodが発売され音楽のダウンロードが徐々に一般化していった。また、2015年にはApple Music、2016年にはSpotifyのサービスが日本でも始まり、「CDやレコードをリアル店舗で買う」習慣は完全に時代遅れのものとなってしまった。
そんな中で、オンライン空間ではできないことを模索した結果、こうしたタワレコの「体験型」ともいえる店舗の形が生み出されていった。「リアル店舗の役割とはなんなのか」を考えた結果、こうした「選択と集中」戦略が生まれたわけだ。 ちなみにこの戦略は、タワレコが意識的に採用している「マスコア戦略」にもよく現れている。これについて、前掲のインタビューで高橋は次のように説明している。 1つのアーティストのファンのなかにも、マス(一般的なリスナー)とコア(熱狂的なリスナー)がいます。コアなファンは“熱量”に敏感なので、こちらも同じ熱量を持って応援することでまずはコア層からの信頼を得る。やがてはその熱波をSNSなどを介してマス層にも波及させていくという方法です。