進む「生成AIと家電の融合」欧州最大のエレクトロニクスショーで見た最先端
「修理する権利」とデジタル市場法の影響
リントナー氏は特に「欧州発AIの先進技術」のこれからに期待を寄せていると話す。 「欧州は米国に対して特にAIテクノロジーにおいて後塵を拝していると見られがちだが、それは違う。シーメンスのビルテクノロジーや、スタートアップにも目を見張るべきAIに関わるユニークな技術が台頭している。ドイツの自動車産業も2026年の躍進に向けて環境を整えている。欧州のテクノロジー企業が胸を張って、世界を舞台に先端のAI技術を武器に活躍する時代がくる」 「サーキュラーエコノミー」の価値観に基づく新しいエコシステムを家電市場で確立するため、IFAに出展する大手企業が試行錯誤している。日本市場でもプレミアムクラスの生活家電を展開するドイツのミーレは、本体を構成する細かなモジュール(部品)を故障・劣化した箇所と交換しながら長く使えるスティック型掃除機の試作機を展示した。 同社がこの試作機をIFAに出展した目的は、一般来場者およびトレードビジターの反響に直接触れるためだ。結果、実際に循環利用するためには、長期間にわたる部品の安定供給を実現するビジネスモデルを成立させることも課題として浮かび上がったという。同社のスタッフは「製品を売り切るのではなく、サブスクリプション型のサービスにして製品のパフォーマンスを担保する」という道筋も見えてきたと話す。 リントナー氏も「欧州ではユーザーが所有する製品を『修理する権利』について政治的な議論が先行して進められてきた。エレクトロニクス市場においてサーキュラーエコノミーを確立することが実際どのような形でユーザーと企業にインパクトをもたらすのか、慎重に見極める必要がある」とコメントしている。 今年の1月には欧州連合(EU)に加盟する27カ国でデジタル市場法(DMA)が施行された。現在、同地域のユーザーはiPhoneやAndroid端末の公式アプリマーケット以外の手段を使う「サイドローディング」により端末にアプリをインストールしたり、デベロッパーが運営する決済サービスプロバイダ(PSP)からコンテンツを直接購入できる。 このように環境が変化したことについて、リントナー氏は「アプリを開発・提供するデベロッパー企業の株価上昇につながり、各社によるイノベーティブな商品・サービスの開発が活発化している。今後はコンシューマーにも安価な商品が届くことで、よい影響が見えてくるのではないか」とポジティブな見解を示している。 デジタル市場における競争が促進されたとして、一方ではサイドローディングがモバイルプラットフォームの安心・安全を脅かす危険性も指摘されている。その結果、安全なプラットフォームを維持するためのコストがデベロッパーやコンシューマーに負担として跳ね返る返ことも考えられる。先行する欧州の状況を注視しながら、現実にビジネスが直面するメリットとデメリットを中立的な視点から見極める必要があるだろう。
山本 敦