障害者雇用は人的資本経営の試金石 あらゆる職場で「合理的配慮」を
障害者雇用だけでなく、あらゆる職場で「合理的配慮」が必要
――ここまでお話を伺って、障害のある方を特別視しすぎない方がよいと感じました。 そうですね。ただ、何らかの困難を抱えているわけですから、その点に配慮する必要はあります。そうした困難を抱えながらも頑張っている、一人の同僚として接するとよいでしょう。 全員が同じように働いてきた職場では、ハードルを高く感じてしまうこともあるでしょう。最初の一歩は不安がつきものです。障害者を雇用して、賃金に見合う仕事を期待できるのか、任せられる仕事はあるのか、チームの一員としてコミュニケーションがとれるのか……。 障害特性によっては、勤怠が不安定になることや、パフォーマンスが落ちることもあると思います。ですが、ノーワーク・ノーペイを原則と考えれば、休んだときや遅刻したときは、その分の給与は支払われないわけです。出せるパフォーマンスに応じた賃金制度にすれば、周囲の人がとやかく言うことではありませんし、手を打つことはできます。例えばグループで雇用する。一つの仕事を3人で担当すれば、誰かが休んでも仕事はまわりますし、余裕を持った納期を設定するなどコントロールが可能です。 こうしたことは、障害者雇用に限った話ではありません。育児や介護中の方、闘病中の方など、さまざまな事情を抱える人たちが共に働くうえでも大切なことです。あらゆる現場で合理的配慮が必要なのです。「あの人は障害者だからパフォーマンスが出せない」「子育て中だから短時間しか働けない」といった目で見るのではなく、それぞれの事情を抱えて仕事をしており、パフォーマンスに応じて評価される状態に慣れていくことが、本当の意味でのダイバーシティ&インクルージョンの推進につながります。障害者雇用推進の取り組みは、そうした企業風土をつくることに大きく貢献し、すべての働き手に選ばれる企業につながると信じています。 ――最後に、企業人事の方々にメッセージをお願いします。 障害者雇用に取り組むことは簡単ではありませんが、人事部だけで抱え込まないでください。労働組合ともっと連携してもいいでしょう。障害のある方だけでなく、OJT担当者が労働組合の職場相談を利用して定着につなげているケースも報告されています。活用できる支援機関や制度もあります。2024年に始まった「障害者雇用相談援助事業」では、障害者雇用の経験やノウハウを有する認定事業者から、障害者の雇い入れや雇用継続に関する伴走型支援を受けることができます。無料で利用できるので、こうした仕組みもぜひ活用してほしいですね。 障害者雇用こそ、「人的資本経営」の試金石であると考えています。障害者雇用に取り組むことは、あらゆる人にとって働きやすい職場をつくること。こうしたメッセージを経営トップや人事部から発信し、ぜひ現場を巻き込み一緒になって取り組んでほしいと思います。
プロフィール
眞保 智子さん(法政大学 現代福祉学部・大学院人間社会研究科 教授) しんぼ・さとこ/博士(経済学)、精神保健福祉士。法政大学大学院社会科学研究科経営学専攻修士課程修了後、群馬女子短期大学、高崎健康福祉大学短期大学部で教壇に立ち、高崎健康福祉大学健康福祉学部医療情報学科准教授を経て2014年より現職。主な研究テーマは障害者雇用とキャリアデザイン、障害者や若者の就労支援など。近著に『障害者雇用の実務と就労支援―「合理的配慮」のアプローチ』(日本法令)などがある。