障害者雇用は人的資本経営の試金石 あらゆる職場で「合理的配慮」を
インターンでの見極め、「同僚」としての受け入れが定着のカギ
――2024年4月に障害者法定雇用率が2.5%に引き上げられました。2026年7月からは2.7%となる予定です。多くの企業が今まで以上に障害者を雇用していくことが求められますが、障害者の採用にあたって留意すべき点は何でしょうか。 ポイントは、採用前にインターンシップを実施することです。面接だけではわからないことも多いため、インターンシップを通じて、安定的な就業が可能かどうかを、企業と求職者の双方が確認できるといいですね。 ――インターンシップでは、どのような点に留意して見極めればよいのでしょうか。 まずは就労意欲があり、基本的な労働習慣が身についているか。具体的には、あいさつ・報告・連絡・相談・質問ができるか、職場の規則を守れるか、他者からの助言を受け入れる素直さがあるか、周囲の人を大切にしてお礼や謝罪ができるかなどを確認します。 次に、その方のこだわりや、どんな時に働きがいを感じるかなど、働くことに対する価値観を把握します。会社が大切にしている価値観と本人の価値観が合致することが大切です。 体調不良時の状況とその原因、回復方法などをどの程度理解しているか、通院頻度・服薬の状況、規則正しい生活リズムが整っているかなども重要な視点です。さらに、どのような場面にストレスを感じるか、人間関係が課題となるケースもあるので苦手なタイプはどのような人かなども把握しておくとよいでしょう。 ――採用だけでなく、定着という点でも課題を感じている企業は多いようです。定着において留意すべき点を教えてください。 支援者や支援機関と連携しつつ、本人が就業しやすい環境を整えることです。大切なのは受け入れ側の体制づくり、風土づくりです。 直接仕事を指導するOJT担当者に加えて、障害のある社員をマネジメントし、支援機関や関係者と連携する窓口役のキーパーソンも選定してください。OJT担当者と同じ人でも構いませんが、キーパーソンは一定以上の権限を持っている必要があります。障害がある社員から相談を受けた際、必要に応じて仕事内容の変更や配置転換といった対応が取れる体制でなければ退職につながってしまうからです。能力開発という観点でも、仕事を配分する権限を持っていることが重要ですね。 ただし、特定の人任せにしてはいけません。キーパーソンやOJT担当者の悩みを共有できる場をつくるほか、障害者職業生活相談員資格の認定講習や職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修などの受講を通じて能力開発の機会を設けるなど、担当者を孤立させない対応が求められます。トップのぶれないコミットが支えとなります。 そして何より、担当者だけでなく職場にいる全員が、障害のある方を「同僚」として迎える意識が大切です。特に精神障害や発達障害のある方の中にはコミュニケーションに困難を生じるケースがあり、疎外感を抱きやすい傾向があります。「障害者雇用のAさん」ではなく、「同僚のAさん」として接すること。実は日本企業はこれが苦手です。派遣社員の方を名前ではなく「派遣さん」と呼ぶ会社もあるくらいですから。派遣や契約社員の高スキル人材をうまく活用できずに退職させてしまったという話もよく聞きます。 無意識の区別や偏った見方が原因で本来の力を発揮できない人がいることは、非常にもったいない。日本企業が生産性を維持して生き残っていくためには、派遣社員だろうと嘱託社員だろうと、障害者雇用の方であろうと、同僚として認めることが必要です。障害者雇用は企業にとって、多様な背景の人とともに働くチームビルディングを促す価値があることだと認識して取り組んでほしいですね。 ――雇用の増加だけでなく、障害者である社員の賃金向上やキャリアアップのため、企業にはどのような姿勢・対応が求められますか。 障害者雇用促進法の第5条には「全て事業主は(中略)障害者である労働者が有為な職業人として自立しようとする努力に対して協力する責務を有する」とあります。2022年の法改正で「職業能力の開発及び向上に関する措置を行う」ように努めなければならないと追記されました。これだけ見ると義務が増えたと感じてしまうかもしれませんが、障害者の能力開発なしに定着はありません。 研修なども有効ですが、仕事を通じた能力開発が最も重要だと考えています。ポイントはどんな仕事を配分するか。これはすべての働き手に対して言えることですが、障害者雇用では特に、個々の得手不得手を把握し、できることに着目した「比較優位」の考え方が有効です。自分に合った仕事を任せることで能力の向上が見込めますし、成果を上げやすいため、仕事への意欲が高まります。 また、仕事の幅を広げることも必要です。本人の能力や希望を考慮せずに単純作業ばかりを任せるケースを多く見てきましたが、ほとんどが長く続きません。確かに、知的障害がある方の中には単調な作業を長く続けることに向いているという特性がある方もいますが、それでも3、4年すると、やはり飽きてしまうのか生産性が下がります。例えば製造業であれば、30分で10個作れるようになったら、13個作るための工夫を一緒に考える。あるいは他の人への指導やマニュアル作成など、今の業務から派生した少し難易度の高い仕事にチャレンジしてもらう。 留意しなければならないのは、新しい仕事や難しい仕事に取り組む際は、仕事の手順を明確化する、見本品やマニュアルを用意するといった合理的配慮が必要な点です。いつでも質問や相談できる仕組みを整えることも合理的配慮の一つ。こうした合理的配慮は障害のある方だけでなく、新入社員にも有効です。自分から質問できず、悩んでいる様子を見せずに退職してしまうことは、最近の若手社員に起きがちで、実は障害者雇用の場合と原因は似ていると感じています。