沸騰するアートマーケットの裏に「贋作の世界」…県立美術館が“6000万円超”で購入も「大物贋作師」の告白で大トラブルに
2024年はアートにおける「贋作」が注目された年でもあった。徳島と高知の県立美術館が所蔵する作品に偽物の疑いがもたれ、展示を取りやめたことが話題になったのだ。なぜ贋作は生まれるのだろうか。過去の具体例を検証していくと、贋作者の「知られざる意図」が浮き彫りになる。【小川敦生/多摩美術大学教授】 (前後編の前編) 【写真】昭和のキャバレー王と呼ばれた有名コレクターの秘蔵カット
美術作品に贋作が存在するのはなぜか。理由は比較的簡単に説明できる。美術作品にはしばしば、数十万円~数千万円、ものによっては億円単位の値がつく。芸術作品であると同時に、売買が可能な商品になりうる。商品として見た場合の単価が著しく高く、販売効率は極めていい。 一方、日用品や事務用品などの量産品とは違って、作家ごとに特化した専門知識や鑑識眼を持つ者でないと真贋鑑定が難しい。さらに贋作者には、たとえば油彩画や日本画のように筆で描くものであれば、筆を自在に操りながら似せて描くスキルが必要だ。どの分野にも長けた人材がいるように、絵画の世界にもそうしたスキルの持ち主がいる。その大半は、犯罪である贋作の制作に手を染めることはしない。だが、ほんの一握りの人材が手を染めることはありうる。それゆえ、贋作が存在するのである。 最近話題になっている例を一つ挙げる。徳島県立美術館は、所蔵しているジャン・メッツァンジェ(1883~1956年、仏ナント生まれ)の「自転車乗り」という作品が、大物贋作師として知られているドイツ出身のヴォルフガング・ベルトラッキという人物の手になる贋作である可能性が浮上したため、展示を取りやめることを今年7月12日に発表した。ベルトラッキは、過去に数百点の贋作絵画を描いた大物贋作師として知られ、販売に加担した妻とともに2011年に有罪判決を受けて、服役した経歴を持つ。さらに、高知県立美術館で所蔵している作品にもベルトラッキの手による贋作の疑いがもたれている。 メッツァンジェは日本では一般にはあまり知られていないが、西洋美術史上では、20世紀前半のフランスでピカソやブラックが起こしたキュビスムの流れの上にある画家として認知されている。同館が「自転車乗り」を購入したのは1998年度で、購入金額は6720万円。円安の前から億円単位で取り引きされる絵画は世界には多いが、6000万円程度でも十分高額だ。