芥川賞作家・金原ひとみが問う「君たちはどう生きるか」。自由に生きられない日本人へ
2004年に当時20歳の若さで、芥川賞を受賞した作家・金原ひとみさん。 デビューから約20年が経過したが、話題作を次々に発表し、日本の小説界をリードし続けてきた。 【全画像をみる】芥川賞作家・金原ひとみが問う「君たちはどう生きるか」。自由に生きられない日本人へ そんな金原さんが2024年10月に発売した最新刊『ナチュラルボーンチキン』は、変化のない日々を送る40代の女性会社員が主人公。金原さん自身が「この物語は、中年版『君たちはどう生きるか』」だと表現する作品だが、同調圧力が強い日本社会で、自分の生きたいように生きるとは、どういうことなのかを突きつける作品だ。 「日本では他人の視線が自分の視線になってしまう」と話す金原さんに、作品に込めた思いを聞いた。 金原ひとみ…1983年、東京都生まれ。2003年に『蛇にピアス』ですばる文学賞を受賞しデビュー。2004年、当時19歳だった綿矢りささんと芥川賞をダブル受賞し話題に。2012年『マザーズ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、2020年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞、2021年『アンソーシャルディスタンス』で谷崎純一郎賞など、数々の文学賞を受賞。現在、すばる文学賞、文學界新人賞、新潮新人賞の3つの選考委員を務める。
「四五にして見事に何もない」
── 新作『ナチュラルボーンチキン』では、10年間、あえて毎日同じ食事をし、毎日色違いの同じ服を着るなど、徹底してルーティーンを守る生活を続けている出版社勤務の45歳女性が主人公です。なぜ「ルーティーン」をテーマにしたのでしょうか？ ある担当編集者の方とご飯を食べに行ったとき、「コロナもあって人とご飯を食べるのは1年ぶり」だと言っていて、彼女は毎日、野菜と肉を焼肉のたれで炒めたものを食べていると。 嫌にならないのか聞いたら「全然大丈夫。美味しいですよ」という感じで、私にとっては結構ショックでした。そこから着想して、ルーティーンを守る人たちを書いてみたいなと思いました。 ルーティーンをこなして、自分の殻を分厚くして生きることもありだと思っています。殻を分厚くすることは、耐えられないことをシャットアウトしたり、追い詰めてくるような存在を人生から遠ざけたりする意味もあるので。 守りに入ることが悪いことではない。ただ、閉じていった先を考えたときに、1つだけ別の要素を取り入れるとか、1歩だけ踏み出してみるとか、そういう習慣があってもいいんじゃないかとも思います。ちょっと足を踏み出してみたら、小説のようなことが起こるっていうのは理想だと思います。 一人きりでご飯も仕事も過不足なく、波風の立たないこの生活を始めて十年が経つ。趣味もなければ特技もなく、仕事への矜持もなく、パートナーや友達、仲のいい家族や親戚もペットもなく。四十五にして見事に何もない。 『ナチュラルボーンチキン』より引用
