「日本では“こうでありたい”が難しい」

── 金原さんは2012年からパリに移住し、現地で6年間、執筆や子育てを経験されました。『ナチュラルボーンチキン』では、周囲の目を気にする主人公が登場しますが、2024年の日本の現状をどう感じますか？ フランスでの生活で感じた人の目を気にしないとか、自分のやりたいことをやるとか、その感覚は忘れたくないと思っています。 フランスでは年配の女性とかがすごく強い。日本人の感覚で言うと10代向けのお店でも普通に買い物して、派手な下着屋さんにもおばあちゃんがたくさんいます。 みんな好きなものを買って、好きなものを身につけることを徹底していて、あまり均質化していない。 フランスにいる間、自分は何を着たいのかと改めて考えました。自分の好きな格好をしていると思っていたけれど、どこかでフィルターがかかっていた部分があったと気が付きました。 その感覚を忘れないようにしようと思っていましたが、日本に帰ってくると、人の視線が自分の視線になってしまう。どんなに逃れようとしても、人の目が内在化してしまっている。 日本では、純粋にこれがしたい、あれが欲しい、こうでありたい、がすごく難しい環境だなと実感しています。そのフィルターはなかなか外せないと、私自身も毎日感じています。