富岡製糸場とともに世界遺産登録へ 「絹産業遺産群」とは?
6月のユネスコ世界遺産委員会で正式に登録される見込みの「富岡製糸場と絹産業遺産群」は、国内の産業遺産としては2007年の石見銀山(島根県)に次ぐもの。どうしてもエース格の製糸場に注目が集まりがちだが、「~産業遺産群」とあるように、以下の群馬県内の3産業遺産もともに重要な構成資産だ。 通風重視の養蚕法(清涼育)を開発、近代養蚕農家の原型となった田島弥平旧宅(伊勢崎市)、換気と温度調整を調和させた養蚕法(清温育)を確立、教育機関としてその普及に貢献した高山社跡(藤岡市)、岩の隙間から吹く冷気を利用した蚕の卵の貯蔵施設である荒船風穴(下仁田町)。 いずれが欠けても近代的製糸産業は成立せず、日本伝統の養蚕技術と西欧の製糸技術を融合させ、より高いレベルで結晶させることに貢献した施設といえる。今回の登録勧告は「構成資産を厳選、それぞれの価値を明確に主張したことも高評価の要因」と評されている。
「産業遺産」の定義とは何か?
昨年までの登録数が981件を数えるなど、世界遺産には以前から「増えすぎ」が指摘されていた。とくに90年代以降は欧州の史跡・建造物やキリスト教をはじめとする宗教関連遺産に偏る傾向があった。そうしたなか、ユネスコは1994年に「世界遺産における不均衡の是正および代表性・信頼性確保のためのグローバルストラテジー」を採択。「20世紀の建築物」「文化的景観」とともに「産業遺産」を考慮すべきとの方針を示した。 では「産業遺産」の定義とは何か? 産業遺産の保護・振興に関する国際的組織TICCIH(国際産業遺産保存委員会。世界遺産に関する事前審査を行うイコモスの特別顧問でもある)は、2003年の総会において「ニジニータギル憲章」を採択、産業遺産保存に関する国際的な基準とした。 それによれば「歴史的、技術的、社会的、建築学的、あるいは科学的価値のある産業文化の遺物からなる遺産。建物、機械、工具、工場及び製造所、鉱山及び処理精製場、倉庫や貯蔵庫、エネルギーを製造し、伝達し、消費する場所、輸送とそのすべてのインフラ、そして住宅、宗教、礼拝、教育など産業に関わる社会活動のために使用される場所から成る」(産業考古学会訳)。さらに意訳すれば、「科学技術や産業活動の発展を象徴する歴史的資産」となるだろうか。