「トイレをきれいに」より実は圧倒的に効果的な文言、「認知バイアスに訴求」して人を動かす「ナッジ」とは何か
アメリカのアリゾナ州にある化石の森国立公園では、観光客による化石の持出しに悩まされていました。そこで公園当局は持出し防止の看板を設置しました。 看板1 「1人が化石を少しずつ取っていくと、年間14トンにもなります」 看板2 「化石を持ち出さないでください」 どちらの看板が、観光客に効果的だったかわかりますか? 実は看板1は、意図とはまったく逆の効果をもたらしました。看板なしの状態では観光客全体のうち3%の人が化石を持ち出していましたが、看板1を設置することで、持ち出す人は8%に増えたのです。反対に、看板2を設置すると2%に減りました。
つまり、看板なしの状態に対し、看板1を設置したときには持出しが3倍近くに増えたのです。看板1は持出しに少しでも興味のある人にとって、「大勢の人が化石を持出ししている」という「同調バイアス」に訴えるものだったのです。 正しくは「大勢のお客様は持出しをしていません」とすべきでした。このように、望ましくない行動をしている人数が多いことを示すと、期待と逆の同調効果が働いてしまう可能性があります。 ■小さなメッセージ1つで人の動きが変わる
他にも、社員の参加を促したい総務からの連絡で、「当営業所のEラーニング参加率が全社ワーストです。積極的な参加をお願いします」のようなメールが届くことがあります。これは「皆が受けていないなら、しばらく様子を見てみよう」というネガティブな同調バイアスを刺激する、危険なメッセージになります。 それよりは「毎月2%ずつ参加者が増えています」「あと3人登録すると、隣の営業所を抜きます」といったポジティブな同調効果に訴求するメッセージにしたほうが参加意欲を高めることになります。
このように、小さなメッセージ1つでも、部下に適切に伝えるためには、人を動かすコツや、認知バイアスを知っているといないでは、大きな差が出るのです。
竹林 正樹 :⻘森⼤学客員教授