「トイレをきれいに」より実は圧倒的に効果的な文言、「認知バイアスに訴求」して人を動かす「ナッジ」とは何か
■インセンティブは設計次第で逆効果になる 昔、コブラの被害に悩まされていたインドでは、政府が「コブラを捕まえて、その死骸を役所に持ってきた者に報奨金を与える」とお触れを出しました。そこで住民が報奨金目当てにコブラの飼育を始めました。 しかし、住民が報奨金目当てでコブラを飼っていると知った政府は、報奨金を出すのをやめることにしました。すると住民はコブラを育てる動機がなくなり、かといって殺すのも面倒なので放置してしまい、逃げ出したコブラは大いに繁殖。お触れを出す前よりコブラが増えてしまいました。
このように、インセンティブは、設計した人が意図しない行動を引き起こす可能性があります。 ビジネスでも同様です。例えば「ドラフトで指名した選手が入団したら、ボーナス支給」という制度にすると、スカウトたちは欲しい選手の交渉を頑張るよりも、確実に入団する選手を指名するようになると想定されます。これがインセンティブ設計の難しさです。 また、一般的には仕事上の行動で「強制」を使って、人を動かすことは避けたいですよね。そんなときこそ、「ナッジ」の出番です。ナッジは比較的新しい理論ですが、昔からナッジに通じる知恵や工夫はありました。
例えば、一流ホテルや大企業でも男性用の小便器は汚れていることがあります。ここで、「壁に『一歩前に』と貼り紙をする」「床に足跡マークを描く」「便器の中に的(まと)シールを貼る」といったナッジがよく使われます。順に見ていきます。 そもそも「トイレをきれいに」と言われても、急いで用を足したい人にとって、何をすべきかよくわかりません。これに対し、「一歩前に」とはっきりと記載することで、その通りに行動しやすくなります(簡素化ナッジ)。
また、「床に足跡マーク」は、先ほど紹介した「スーパーのレジ前の足跡シール」と同じく、つい足を置きたくなります(規範ナッジ)。「的シール」はゲーム好きの特性に訴えかけたナッジです(ゲーム化ナッジ)。とくに射的が大好きな人は、的があると狙いたくなるものです。ただし、インセンティブと同様にナッジも設計次第では逆効果になることがあるので注意してください。 ■悪い方向の「同調バイアス」に要注意 たとえば、次のケースを見てみてください。