「トイレをきれいに」より実は圧倒的に効果的な文言、「認知バイアスに訴求」して人を動かす「ナッジ」とは何か
人・物・金の合理的な配分を追求する経済学の中でも異色の「行動経済学」がブームです。行動経済学のポイントは、「人は時に不合理な行動をとる」という前提に立っていること。つまり、コミュニケーションのすれ違い、長引くムダな会議、延々と続く説教……など職場に起きる問題は、メカニズムさえわかれば最適な解決法がわかるのです。 本稿では行動経済学の第一人者、青森大学の竹林正樹客員教授による『ビジネスパーソンのための使える行動経済学』から、認知バイアスに訴求して人を動かす方法について一部抜粋してご紹介します。
■人を動かす「4つの方法」 行動経済学では、人を動かすには大きく分けて4つの方法があると考えます。具体的にイメージするためにスーパーのレジの列で、来客に「前後の人と2メートルの間隔をあけさせる」という場面を考えてみましょう。 1. 情報提供(正しい情報を与え、納得の上で動かす) まずは「感染症対策のため、2メートル間隔をあけてください」とアナウンスするなどして、情報を提供することで必要性を訴え、納得の上で人を動かす方法です。インフォームドコンセントの観点から、情報提供に基づく行動が最も望ましいです。でも、これだけではなかなか間隔をあけない人がいますよね。
2. インセンティブ(褒美と罰で動かす) それでも間隔をあけない人には、ご褒美と罰を設定します。「2メートル間隔をあけた人は10%割引、あけなかったら10%加算」とすると、間隔をあける人が出てきます。多くの人はご褒美に釣られ、あるいは罰を避けるように行動します。 3. 強制(力ずくで動かす) それでも間隔をあけない人には、最終手段として、警備員が力ずくで間隔をあけさせます。これは強制力での行動であり、本人の自発性はゼロです。
4. ナッジ(認知バイアスに訴求して動かす) 例えば床に2メートルおきに足跡シールを貼ると、それに合わせて足を置きたくなるもの。これがナッジです。 最初の「情報提供」で動いてくれればいいのですが、それでも行動が変わらない場合、一般的にはインセンティブを設計するなどして、動かそうとするのではないでしょうか。しかし、インセンティブは設計によっては逆効果になることがあります。次のケースをご覧ください。