至高のヒレのしゃぶしゃぶが待っている。牛肉の老舗「銀座吉澤」が圧巻のリニューアル
聞けば、200ccの水に対して100gもの牛肉を使っているそうで、30分という短時間でうまみを抽出できるのも、肉をふんだんに使えばこそだろう。数時間かけて煮る従来のコンソメとは一味違う、ピュアなおいしさが身上だ。黄金色をしたスープは、心に染み入るような風味の中、深いコクが舌を覆う。それでいて味わいの印象はクリア。ここで既に心はすっかり持っていかれるに違いない。
続いて、前菜に「和風タルタルサンド」、造りは「和牛刺身」、そして替り鉢の「和牛生ハム巻き」と生食系が3連発。もちろん、きちんと定められた規格基準をクリアした衛生面でも安心できる生肉を使用。刺身は霜降り肉と赤身肉の抱き合わせで、取材日は、堀井牧場の松阪牛のサーロインと内もも肉を用意。刺身を見れば、質の高さは一目瞭然。室温に置かれたそれは、置くほどに脂が溶けはじめ、表面がうるっと潤んでくる。脂肪の融点が低い証拠だ。
通常、牛の融点は40~50℃と言われているが、和牛は25.9℃と低く、これが松阪牛ともなれば17.4℃と更に低い。この融点の低さは、そのまま口溶けの良さに繋がり、おいしい肉の必須条件となる。取材日は、たまたま松阪牛だったが、それに固執しているわけではなく、和牛の産地はその時々で変わっていくそう。
裕介氏曰く「牛肉には個体差があり、銘柄だけを見て選んでもだめで、同じ血統でもけっこう違っていたりするんです。なので、牛を選ぶ時はまず生産者さんと会い、牧場まで足を運ぶようにしています」とのこと。牛肉の仕入れは直樹氏の担当だそうで、その目利きには業界人も一目置くほど。牛への思い入れも深く、一頭一頭をしっかりと見極め、牛の銘柄だけにとらわれることなく、生産者の育て方等々、自らの目で納得したものだけを仕入れるなど徹底している。
裕介氏によれば「当社では、融点が低く脂の柔らかい雌牛だけを仕入れ、その選定基準として4つのポイントを重視しています」とのことで、その4つのポイントとして、1つ目は“体型”。小ぶりで胴が締まっていてロースにハリがあること。2つ目は“脂質と肉質”で、脂はサラサラしており、肉は小豆色で適度な水分量があり、締まっているものが良いそうだ。そして、3つ目は“血統”。但馬牛の血統が濃いことも条件の一つで、4つ目は“飼育法”。肥育日数33カ月の処女牛で、霜降りも見事な肉は小豆色。おいしさの基準の一つである脂の融点が低くなりアミノ酸も増えるわけで、長期肥育の牛肉がおいしい理由の一つはそこにあるのだろう。