「勝訴を超える成果だ」千代田区長による独断での“日比谷ミッドタウン広場”の“無償貸し渡し”を争う「住民訴訟」が原告の“訴え取り下げ”で終結…その理由とは
住民訴訟の仕組みには「限界」もあるが…
この覚書の意義を、大城弁護士は次のように説明した。 大城弁護士:「住民訴訟の枠組みには限界がある。制度上、住民は、契約の内容について『見直しをしないのは違法だ』という判決を求めることしか認められていない。肝心の契約の中身を法的に拘束する判決を得ることは、仕組み上、できないことになっている。 極端なことをいえば、区が『見直しをしましたが、その結果、いっさい変更しないことにします』ということも可能だ。 しかし、区と日比谷エリマネ社との間で法的拘束力のある覚書が締結されたことによって、元の不動産の無償貸与契約の考えられる抜け道はほぼ塞がれた。 千代田区の財産が保全されることになった一方で、日比谷エリマネ社が区の所有不動産の無償貸与から受ける経済的なメリットがぐっと少なくなった。 日比谷エリマネ社のほうから、将来想定される大規模修繕を請け負うよりも、途中で解約したいとか、有償の賃貸借契約にしたいとかの申し出が行われるかもしれない。 今後、この無償貸与の状況が続くかどうかも含め、この裁判の成果を土台として、千代田区の区政のなかでどのように状況が改善されていくのか、しっかりと見ていただきたいし、我々もできる限りの取り組みを続けていきたい」 昨今、地方自治の現場では、首長と議会・住民の緊張関係や「百条委員会」の活動が伝えられることが多くなった。本件でも、千代田区長が独断で行った区有財産の無償貸与について、議会が設置した「百条委員会」の調査に基づく指摘に対し、後継の区長や執行部が対応を行わなかったという事態が発生した。 また、千代田区の現在の坂田副区長は、本件で問題となった土地建物の無償貸与契約が締結されたときの「担当まちづくり部長」だった。現区長ら執行部の手による「自浄作用」が働かなかったという事実はきわめて重い。今後、区の執行部がどのような対応を行うかは、厳しくチェックされなければならないだろう。 このような事態に対し、住民の立場で是正する手段としての「住民監査請求」や「住民訴訟」は、仕組み上限界があるといわざるを得ない。しかし他方で、今回、住民訴訟が功を奏して事実上、違法・不正な事態が是正されたという実績は、今後、地方自治の活性化にとって、一つのモデルケースとなりうるだろう。
弁護士JP編集部