「勝訴を超える成果だ」千代田区長による独断での“日比谷ミッドタウン広場”の“無償貸し渡し”を争う「住民訴訟」が原告の“訴え取り下げ”で終結…その理由とは
発端は「前区長の疑惑」追及のための「百条委員会」
日比谷エリマネ社への土地建物の無償貸与の事実が発覚したのは、千代田区議会が設置した「百条委員会」における調査においてだった。 石川雅己区長(当時)が一般には販売されない「事業協力者住戸」と呼ばれるマンションを三井不動産グループの企業から購入していた問題に関し、区議会は、真相を究明するために「百条委員会」(地方自治法100条)を設置し、調査を行った。 その調査報告書のなかで、三井不動産が参加する日比谷エリマネ社に、区議会の承認なく土地建物が無償貸与されており、問題があることが明確に指摘された。無償貸与の事実については、区議会にも首脳会議にも報告されていなかった。 しかし、百条委員会からの指摘にもかかわらず、区長ら執行部は契約の見直し等を行わなかった。 大城弁護士:「百条委員会が見直しをすべきだと指摘したが、その直後に区長選が行われ、石川前区長は出馬せず、今の樋口(高顕)区長が当選し就任した。 そして、樋口区長も、百条委員会の指摘にまったく取り合わないまま、期間が経過した。 そこで、元区議の原告3名が住民監査請求をしたが監査委員会に却下され、本件訴訟の提起に至った」
本来は「前区長、担当部長」への損害賠償請求訴訟を提起する予定だったが…
原告の小山みち子氏は、当初は、石川前区長と、当時のまちづくり担当部長の坂田融朗氏(現・副区長)に直接、日比谷エリマネ社が得た利益相当額について損害賠償請求の訴えを提起するつもりだったという。 小山氏:「百条委員会が前区長を偽証罪で訴えている間に時効が成立してしまった。 そこで、契約の見直しと利益を得る権利が区にあることの確認、決算内容の開示を住民訴訟の目的とするしかなかった」
訴えの取下げは「勝訴を超える成果が得られた」ため
住民訴訟が提起された後、今年4月に原告・被告によるプレゼンテーションが行われ、5月に区側の担当者や日比谷エリマネ社の担当者に対する証人尋問が行われた。 その後、裁判所の主導で和解の提案がなされ、協議が行われた。そして、その結果、原告は今月19日に訴えの取下げを行った。 大城弁護士はその理由について「実質的に勝訴を超える成果が得られたため」と説明する。 原告と被告(区)との間で裁判所の主導による和解交渉が行われ、区と日比谷エリマネ社の間で「覚書」が交わされた(12月13日)。 それによって「日比谷エリマネ社が区との使用貸借契約を通じて不当に利益を得る『抜け道』をふさぐことができた」(大城弁護士)という。 覚書で定められた事項の概要は以下の通りである。 ①日比谷エリマネ社が建物部分の修繕義務を負うことの明確化 ⇒元の契約書では無償貸与の対象が「広場及び地下の施設」となっており、地下の商業用店舗等が含まれるか不明確だったのを、明記した。 ②日比谷エリマネ社が得た収益の使い道の限定と「修繕積立金」の明示 ⇒収益の用途を広場等の運営、イベント実施、広告物の掲出、日比谷エリマネ社の運営に限ることを確認し、余った額を「修繕積立金」として積み立てることを明記した。 ③契約終了後の「積立金」の区への返還 ⇒契約が終了した場合に日比谷エリマネ社は「修繕積立金」の全額を区に返還しなければならないことを明記した。 なお、覚書は法的には「契約書」であり、その条項は当事者を拘束し、日比谷エリマネ社には上記の各条項についての履行義務が生じる。