佐野繁次郎とポール・ナッシュ。/執筆:川勝徳重
新しい漫画を描きました。『痩我慢の説』(藤枝静男原作)です。 1955~1957年あたりの静岡を舞台にした漫画で、中年の医者とその姪っ子の価値観のすれ違いや交歓を描きました。 川勝徳重さんの1ヶ月限定寄稿コラムを読む。
カヴァーを取った表紙にピンと来る方もいるかもしれません。1950年代に活躍したブック・デザイナー/画家である佐野繁次郎オマージュです。私にとって1950年代のハイ・センスな日本文学の装丁といったら、それは佐野のものなのです。あわよくば自分の本もそうありたい。そう考えて彼の作品集(「佐野繁次郎装幀集成 西村コレクションを中心として」)を携えて、川名潤装丁事務所の扉を叩いたのです。川名さんが描いた佐野オマージュの表紙は、1950sの「あの頃」の雰囲気がよく出ています。
漫画は、ありとあらゆるものを取り込んで「本」というパッケージに記録することができます。人々のさりげない感情や想い、ありふれているため普段意識されない風景、ちょっとした言葉遊び、音楽、流行、風俗、そういったものを、ふんだんに織り込むことができます。私も1950年代の風景や歌、漫画をたくさん登場させることで、「あの頃」の雰囲気が醸し出されるように頑張りました。みなさまも機会がございましたら拙作『痩我慢の説』を手にとってみてください。
プロフィール
川勝徳重 かわかつ・とくしげ|1992年、東京生まれ。漫画家。著書に『電話・睡眠・音楽』『アントロポセンの犬泥棒』『痩我慢の説』(いずれもリイド社)。現在、戦前の児童漫画叢書ナカムラ・マンガ・ライブラリーの長編評論『夢と重力』執筆中。2025年にまんだらけ出版より刊行予定。 text: Tokushige Kawakatsu, edit: Ryoma Uchida
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