注目のミュージシャン、クレア・ラウジーが奏でる「エモ・アンビエント」 ジャンルに縛られない音楽づくり
――「ハイパーポップ」についてはどうでしょう? その「Never Stop Texting Me」は、サウンド的にはヴェイパーウェイヴというよりむしろハイパーホップとの比較で評価された作品だったように思います。
クレア:ハイパーポップはどれも大好きです。今はすごい人気で、チャーリー・xcxなんてロック・スターみたいな感じだけど、昔はもっとマイナーでアンダーグラウンドで、知る人ぞ知るって感じの音楽だった。あの頃のハイパーポップって、まるで培養器の中でどんどん変化し続けるウイルスみたいで、新しいものが次々に生まれてくるのを見るのがすごくクールで面白くて。でも今は、ハイパーポップがメジャーになりすぎて、一つのスタイルが確立され、誰もが同じスタイルを模倣しようとするようになってしまった気がする。5年前、つまり「Orange Milk」でマリ(モア・イーズイ)と一緒に音楽をつくっていた頃は、ハイパーポップってもっと自由で、なんでもありの無法地帯だった。だけど今は、みんなが“ハイパーポップな感じ”にするための公式に従っているように感じる。多くのハイパーポップはクールで最高だと思うけど、今の有名なアーティストの中には、ポップ・スターみたいにハイパーポップを扱っている人もいて。90年代にグランジがコマーシャライズされたみたいに、ハイパーポップもそうなってる感じがするというか。一つの音楽にみんながハマり過ぎると、その音楽のクールさが薄れてしまうのかもしれないですね。
実験的なサウンドへの志向
――「sentiment」と異なり、それまでのクレアさんの作品ではミュージック・コンクレートやフィールド・レコーディングを主体とした音楽が多く占めていましたが、そもそもそうした実験的なサウンドを志向するようになったのはどのようなきっかけからだったのでしょうか。
クレア:そのような音楽って、多くは控えめで繊細な印象が自分の中にはあって。自分の場合、その対極にあるようなエクストリームでラウドな音楽――マス・ロックやノイズ・ミュージックなどを通じて実験的な音楽に触れてきました。なので、同じくらい実験的で先鋭的でありながら、まったく反対の方向に振り切ったような音楽を探していたんです。