湖の侵略的外来魚についに「勝利」、在来魚食い荒らす米五大湖のウミヤツメ、どうやった?
獲物の体に穴を開け、血を吸う手ごわい敵
顎を持たない円口類のウミヤツメは、鋭い歯が並んだ円形の口を使ってあらゆる魚の腹に食いつく(狙う相手は選り好みしない)。そして、シカゴにあるシェッド水族館の上級水生生物学者のエバン・キン氏いわく「ギザギザの歯がついた舌」を繰り出す。 「これを使って獲物の体に穴をあけ、血を吸います。唾液のせいで、出血は止まらなくなります。宿主の魚にとっては非常に不快で、不愉快な経験でしょう」 20世紀半ばにウミヤツメが五大湖に定着し始めると、漁の網に大量の魚の死骸がかかるようになった。漁師たちは船の甲板で吐き気を催すほどだったという。公聴会では、商業漁獲量の5倍に相当する量の魚がウミヤツメに食べられたという証言が聞かれた。 1954年、米国とカナダの政府、米国の8州、カナダの1州、そして先住民族団体の間で条約が結ばれ、GFLCが設立された。ガデン氏によれば、既にダムや堰、電気、「超巨大なざる」などを使ってウミヤツメの駆除が試みられていたが、どれも効果はなかったという。 「若い成魚になって湖に入り、ほかの魚を殺すようになる前に、川床で暮らす幼生の段階で駆除する方法を見つけなければならないことに気付きました。こうして、駆除剤を開発するプログラムが立ち上げられました」
夢のような解決法
五大湖の一つであるヒューロン湖の岸に、元沿岸警備隊の施設を転用したハモンドベイ生物学ステーションがある。1950年、米ミシガン大学の科学者たちはこのステーションと協力して、在来種を傷つけることなく外来種だけを駆除できる物質を見つける研究を始めた。侵略的外来種の管理に携わる誰もが、そんな夢のような解決法はないかと模索している。 「魚を殺すこと自体はそんなに難しくありません。実際、漁業管理ではよく行われていることです。本当に難しいのは、ほかの生物に影響を与えずに、狙った生物だけを殺すことです」 しかし、7年かけて在来種とウミヤツメの比較実験を重ねた結果、3-トリフルオロメチル-4-ニトロフェノール(TFM)という化学物質が効果的であることが明らかになった。3億5000万年もの間、ウミヤツメはTFMを代謝する能力を進化させてこなかったのだ。 このTFMが、ウミヤツメ駆除プログラムの屋台骨となった。約1週間かけてウミヤツメの幼生が集中する川の浅い部分に液体のTFMを投入した。 だが、ウミヤツメは成長すると、狩りをするために川の深い場所に移動する。薬剤はそこまでは届かなかった。 1990年代になると、ニクロサミドという薬品を使って、川の深い場所でも駆除が可能になった。時間をかけてゆっくりと放出されるニクロサミドは、川底まで沈み、そこに隠れている成魚まで届いた。現在はこれらの薬品に加えて、ダムや堰を戦略的に活用してウミヤツメの拡大を抑えている。