数字ではつかめない「食べた満足感」を仮説でつかむ
(前回はこちら→「「おいしい」って数字にできるの? 途方に暮れた研究者」) 齋藤努・不二製油風味基材事業部部長(以下、齋藤):ここまで長い前振りでしたが、私たちは今、「MIRACORE(以下、ミラコア)」という技術を使って、動物性の満足感を植物ベースでつくり出すことができるようになった、というわけです。 【関連画像】左から清湯(チンタン)、白湯(パイタン)、フォン、かつおダシ。これは全部植物性で、香料などは使わずに、基本的に油脂とたん白を組み合わせて味をつくっている。 素材の枠を超えて「がっつり食べた!」という気持ちになれるんですか。 齋藤:そうです。植物性素材を使って、今までにないおいしいものが創り出せる。「もっとわくわくするほうにお話を持っていけるようになるね、それが我々のミッションだよね」というところです。(ノックの音に)はい、どうぞ。 何かいろいろ出てきました。 齋藤:左から清湯(チンタン)、白湯(パイタン)、フォン、かつおダシ。これは全部植物性で、香料などは使わずに、基本的に油脂とたん白(※)を組み合わせて味をつくっております。(※「たんぱく」の不二製油グループ本社の表記) 左からまずチンタンのスープ。鶏が入っているような料理のベースのおダシのイメージです。これをベースに塩ラーメンとか中華料理を作れる、というわけです。これがパイタン、豚骨ラーメンのベースになるようなもので、後でご提供します。3番目がフォンでして、洋食のビーフコンソメですとか、デミグラスソースとかのベースになる。これはちょっと牛が顔を出している感じがある味ですね。 なるほど。鶏、豚、牛ときて、最後は。 齋藤:最後はかつおのダシです。東京・麻布十番の堀井さん(総本家 更科堀井)でお使いいただいているのはこれになります。 ●同じ素材の組み合わせで鶏、豚、牛を再現 この4つは同じ材料で作ったんですか。 齋藤:材料は違いますけれども、基本的には油脂とたん白をベースに組み合わせていますね。かつおダシ以外はだいたい同じようなものです。 そもそもですが、例えば本当のかつおダシの味ってどうやってつくるんですか。 齋藤:かつおダシの味は「かつお節に聞いてみないと分からないような話なんだろうな」と、勝手に思っています。かつお節はかつおを切って煮て骨を抜いて焙乾(ばいかん)しますが、味付けをしているわけではないので。 あ、言われてみれば。 齋藤:じゃあ、何を入れたらかつお節の味になるのか。弊社にもガスクロ(ガスクロマトグラフィー)とか液体クロマトグラフィーとか、成分分析をする装置があるんですけど、それで見ても、いろいろなピークは出てくるものの、それらのピークに相当する物質を集めてきても同じ味にならないんですね。というのは、ピークにならないようなものとかが結構、味の重要なキーだったりするので。 ああ、そのあたりは御社とご縁のある相模屋食料の鳥越社長も言ってました。味は突き詰めるとアナログな感覚に沿うしかないと。 齋藤:そう、最新の分析技術でも捉えきれないですし、人間は味をピーク通り、つまり成分の多さや量の通りに感じたりしないんです。味の再現に何が重要かは、我々、人間じゃないと分からない。 ふむ、ということはむしろ人間の感覚を分析するほうが、話が早かったりするんですか。