ローマ教皇へブーケ献上 フラワーアーティストの花人・赤井勝さん 世界的地位確立の背景にある〝謙虚〟さ
─その姿勢が文化をアップデートしていくのか。
建築で説明するとわかりやすい。例えば、天井高が2.5㍍しか取れないマンション。通常より20㌢低いわけだから、入り口だけをわざと高さ2.2㍍ぐらいに抑えてダウンライトで演出すれば、そこから2.5の天井高に広がったとき、2.8㍍くらいの開放感を錯覚させることができる。 ほかにも、4階建てでエレベーターのないマンションの階段を心理的に疲れさせない方法がある。例えば、階段は80㌢幅でつくり、ターンする場所だけ1㍍に広げ、再び80㌢に狭める設計にすれば、上るときにリズムができて軽やかに駆け上がれる。 間口が狭く奥に長い〝うなぎの寝床〟と呼ばれる町家も参考になる。建物が奥に長い特徴を生かし、まず2段の階段を上らせフラットにする。そこには展示物を置き、そしてまた2段の階段をつくる。2段で40㌢だから、3回繰り返せば1㍍20㌢上がったことになる。2階まで上がるのに、いつの間にか半分上がらせたということだ。一気に12段上がるよりも精神的に2階へ上がりやすくなる。
─なるほど。確かに疑問が起点となり、文化が積み上がっている。
僕らは花を飾るとき、建物のオーナーや設計士と話せるわけではないので、意図を想像する。「ここに一つの窓があってライトを落としてるが、どういう意味があるのか」と考えながら取り組む。
─この美術館をオープンした意図は。
今から考えると恥ずかしいが、若いときから自分なりに上手にできた花の作品を、記念に写真に残していた。 そこから撮影の仕事も受けるようになり、つまずくことになる。花を生けて撮影するとイメージ通りに仕上がらないからだ。「なぜ思い通りに表現できないのか」という疑問が解決するまで、ものすごい時間を費やして、ようやく気づいた。 例えば、僕の目から見る花のピンク色と、レンズを通して撮影したピンク色は微妙に変わってしまうということだ。そこで「写真だと思い通りにならない」というこれまでの視点を「こう生けると、写真ではこういう色や表現になるのか」と受け入れることにした。つまり、写真をゴールに見据えて、花の生け方を変えたということだ。 これまでは最高の状態で生けた花を、写真に〝移す〟ことばかり考えていた。しかし、それは無理であることを受け入れ、写真に最高の状態で映るように、生け方を逆算すればうまくいくことがわかった。