【海外トピックス】目が離せなくなったアメリカ大統領選。自動車産業への影響はどうか
第2次トランプ政権になれば、EVシフトは逆回転し始める?
さて、トランプ氏は従来より「EVはアメリカの雇用の犠牲の上に、消費者に遠くに行けない自動車を押し付けるものだ」と批判しており、共和党指名大会でも就任したらバイデン政権のEV政策を即刻破棄すると宣言しました。そうなると、2022年に成立したIRA法での7500ドルのEV購入補助金や、全米で何十ヶ所も計画が進んでいるEVやバッテリー製造工場への何兆円もの補助金はストップされるのでしょうか。前回の大統領就任時と同様に、パリ協定からは脱退することは十分あり得ますし、米国環境局(EPA)のCO2排出規制やNHTSAが定めるCAFE(企業平均燃費)基準も、当初案から緩和されて今春決定されたばかりですが、さらに見直しされ骨抜きになる可能性はあります。
トランプ氏とマスク氏の蜜月
EV嫌いのはずのトランプ氏は、最近テスラのイーロン・マスク氏に頻繁に言及し、スペースX(宇宙ロケット)やAI開発で新事業に取り組む希代の起業家を持ち上げています。ウォールストリート・ジャーナル紙によれば、ヴァンス副大統領候補は、「トランプ氏は古き良き起業家精神を体現したマスク氏を気に入っている。彼は物を作り、車を作り、ロケットを作っている。これはトランプ大統領が作りたい経済だと思う」と述べたそうです。そのマスク氏は国境問題やLGBTQの権利について保守的な発言が多く、政治的な立場はトランプ氏に近づいていましたが、先ごろ氏への全面的支持を表明し多額の献金も行いました。民主党支持者が多いテスラユーザーの離反を招いているとも言われますが、どうやらバイデン大統領との間は冷えていて、バイデン選挙事務所はマスク氏を「自分のためだけに行動する傲慢なビリオネアを米国は望んでもないし必要としてもいない」と酷評したということです。 マスク氏によれば、電話口のトランプ氏はとても感じがよく、「自分の友人の何人もがテスラに乗っている」と語ったそうです。また、EV購入補助金がなくなってもテスラはライバル社ほど困らないとも発言しています。既に新車価格をエンジン車並みかそれ以下に下げているテスラにとっては、コスト競争力に自信があるので補助金の有無はそれほど販売に影響はないとみているのかも知れません。マスク氏は競争激化でレッドオーシャン化したEV販売よりも、AIを駆使した自動運転によるフリートビジネスの方が収益ポテンシャルが大きいと考えていることは、以前このコラムでも取り上げました。 このような最近の蜜月を象徴してか、6月のアリゾナ州での遊説でトランプ氏は、「ところで私はEVに大賛成だ。EVにはそれなり使い道がある。ただガソリン車やハイブリッド車を買いたい人がいれば、買うことができるだろう」と発言しており、これまでのEV嫌いからの変化(首尾一貫性のなさ?)が窺えます。