【海外トピックス】目が離せなくなったアメリカ大統領選。自動車産業への影響はどうか
トランプは何度でも甦る「ゴジラ」
この現象に一つの回答を与えてくれるのは、アメリカ保守政治研究家の会田引継氏の著作「それでもなぜ、トランプは支持されるのか(東洋経済新報社刊)」です。同書の序章で著者は、トランプ氏をゴジラに例えています。曰く、1954年に製作された映画「ゴジラ」は、水爆実験で傷ついた怪獣だが、それは大東亜戦争で南の海や島々で悲運の死を遂げた何十万人もの兵士達の「亡霊」であり、それが半世紀を経て繰り返し日本に現れるのは、癒されることのない魂に対する日本人の懺悔の念があるからだ。翻ってトランプ現象とは、経済のグローバル化と貧富の差の拡大の中で、長い間振り返られることのなかったアメリカ白人労働者層の怒りと怨念が形をとった「現象」であると。トランプの政策が支離滅裂だろうが、人格が破綻していようが関係ない。なぜならトランプは原因ではなく結果だからだ。この譬えは思わず目から鱗でした。 そのことを知ってかトランプ氏は、自身の副大統領候補にオハイオ州の荒廃した労働者の街で生まれ、母親がドラッグ(オピオイド)中毒で自身もその瀬戸際まで追い詰められながらも、踏みとどまってオハイオ州立大学からイエール大のロースクールを出てシリコンバレーで企業し、2年前に上院議員になったばかりのJ.D.ヴァンス氏を選びました。氏の生い立ちを描いた自伝「ヒルビリーエレジー」は2016年のトランプ当選の年に発行されてベストセラーになり、トランプ現象を裏付ける本として知られることになります。今回のヴァンス氏の指名により、共和党は労働者の党に衣替えしたことを正式に表明したと、元編集者で著述家の下山進氏は述べています。
民主党のグローバリズム推進と労働者離れ
従来、共和党はレーガン元大統領に代表されるように「小さな政府」、「個人の自由と最小限の規制」、「自由貿易」、「対外強行(反共)路線」を掲げる強いアメリカを標榜する党でしたが、それがブッシュJr.政権時のネオコン政策やアフガニスタンとイラクでの戦争、リーマンショックを経て、今やグローバル資本主義の否定、白人労働者の味方に意匠替えをしたというのです。 一方、かつて大恐慌後のニューディールの国営事業で雇用を生み出し、労働者の味方だったはずの民主党は、1990年代のクリントン政権時に「ニューエコノミー」の旗のもとグローバル企業を支援し、北米自由貿易協定(NAFTA)を発足させ、グラス・スティーガル法を改正して金融資本主義に道を開くなど、その後の政権でも新自由主義的な経済政策を推進した結果、労働者の党から資本家やウォールストリートに近い党に変貌してしまったのです。 リーマンショックの直後に発足した初の黒人大統領のオバマ政権で、中間層の人々はこの流れが逆転することを期待しましたが、実際には所得格差は拡大し、いわゆるラストベルトの労働者達はエリートテクノクラートとなった民主党を毛嫌いするようになりました。ヒラリー・クリントンの予想外の敗北は、民主党や大手メディアがこの変化に気づいていなかったことを示していたのです。